「エトムート、負けてしまいましたね……」
エトムートを応援していたアーシャは残念そうにそう呟いた。
「まあ、二人とも実力は拮抗していた。どっちが勝ってもおかしくなかったし、今回はたまたまロスペールの運が良かっただけさ」
アデルは敢えてそう答えた。
彼女は純粋にエトムートを応援していたのであるし、多くの観衆も彼女と同じく純粋な気持ちで両者を応援していただろう。その裏に政治的な意図があるとは思いたくないはずだ。
実際に、本気で戦えばどちらに軍配が上がっていたのか、それもわからない。それこそ時の運で勝敗が決するのも間違いがないので、アデルとしては嘘を吐いたつもりもなかった。
「アデルなら、あの二人に勝つ自信はありますか?」
アーシャが少し悪戯げに笑って訊いた。
「後ろから毒矢を刺されないなら、な」
アデルは少しおどけてそう答えて見せると、アーシャもくすくす笑っていた。
次の競技会への出場を王女から提案されたが、彼はそれに対して答えは濁した。本当の意味で実力が競い合えるのあれば、アーシャの為に最強を証明しても良いだろう。しかし、今回の様に政治的な意図を含んでしまうのであれば、結局のところは出場しても虚しくなるだけだ。
例えばエトムートと戦う際に、『国の為に負けろ』と言われてしまえば、アデルには逆らう術がない。冒険者の立場であればそれを突っぱねる事もできるが、今や彼はこの国の王宮兵団に所属している。組織に所属する以上、その組織の意向には逆らえないのである。
アーシャがエトムートの控室に行きたいと言うので、アデルはそれに付き添った。無論、控室に入る様な事などせず、外で待っていた。今エトムートとやらと会えば、間違いなく自分の嫉妬心が爆発してしまうのがわかっていたからだ。
控室から出てきた王女は、やけにご機嫌だった。どうしたのかと訊いてみると、予想外の答えが返ってきた。
「アデルに買って頂いたこのネックレスを褒めてもらえましたっ」
さすがはアデルです、と嬉しそうに微笑む王女。
アデルは嬉しくなると同時に胸の奥がちくりと痛むのを感じるのだった。その笑顔が、アデルから貰ったものを褒められたから嬉しかったからなのか、エトムートから褒められた事が嬉しかったからなのかがわからなかったからだ。もし、自分が上げたものでエトムートから褒められて、それで彼女が喜んでいるのだとすれば、自分はかませ犬も良いところだ。
「そういえば、聞き忘れていたのですが」
「ん?」
「アデルって何歳なんですか?」
王宮への帰り道、アーシャが唐突に訊いてきた。
「二十歳だよ」
アデルは特別隠す事もなく、素直に答えた。自らが仕える人に嘘を言う必要もない。
「二十歳ですか……それなら、クルス様と同じですね」
「クルス様?」
エトムートだけでなく、新たに男の名前が出てきて、思わず息が詰まる。しかも、今度は様付けである。王女である彼女が敬称を付けるという事は、彼女と同等かそれ以上の身分のものだろうか。
勘弁してくれ、というのがアデルの正直な感想だった。
エトムートを応援していたアーシャは残念そうにそう呟いた。
「まあ、二人とも実力は拮抗していた。どっちが勝ってもおかしくなかったし、今回はたまたまロスペールの運が良かっただけさ」
アデルは敢えてそう答えた。
彼女は純粋にエトムートを応援していたのであるし、多くの観衆も彼女と同じく純粋な気持ちで両者を応援していただろう。その裏に政治的な意図があるとは思いたくないはずだ。
実際に、本気で戦えばどちらに軍配が上がっていたのか、それもわからない。それこそ時の運で勝敗が決するのも間違いがないので、アデルとしては嘘を吐いたつもりもなかった。
「アデルなら、あの二人に勝つ自信はありますか?」
アーシャが少し悪戯げに笑って訊いた。
「後ろから毒矢を刺されないなら、な」
アデルは少しおどけてそう答えて見せると、アーシャもくすくす笑っていた。
次の競技会への出場を王女から提案されたが、彼はそれに対して答えは濁した。本当の意味で実力が競い合えるのあれば、アーシャの為に最強を証明しても良いだろう。しかし、今回の様に政治的な意図を含んでしまうのであれば、結局のところは出場しても虚しくなるだけだ。
例えばエトムートと戦う際に、『国の為に負けろ』と言われてしまえば、アデルには逆らう術がない。冒険者の立場であればそれを突っぱねる事もできるが、今や彼はこの国の王宮兵団に所属している。組織に所属する以上、その組織の意向には逆らえないのである。
アーシャがエトムートの控室に行きたいと言うので、アデルはそれに付き添った。無論、控室に入る様な事などせず、外で待っていた。今エトムートとやらと会えば、間違いなく自分の嫉妬心が爆発してしまうのがわかっていたからだ。
控室から出てきた王女は、やけにご機嫌だった。どうしたのかと訊いてみると、予想外の答えが返ってきた。
「アデルに買って頂いたこのネックレスを褒めてもらえましたっ」
さすがはアデルです、と嬉しそうに微笑む王女。
アデルは嬉しくなると同時に胸の奥がちくりと痛むのを感じるのだった。その笑顔が、アデルから貰ったものを褒められたから嬉しかったからなのか、エトムートから褒められた事が嬉しかったからなのかがわからなかったからだ。もし、自分が上げたものでエトムートから褒められて、それで彼女が喜んでいるのだとすれば、自分はかませ犬も良いところだ。
「そういえば、聞き忘れていたのですが」
「ん?」
「アデルって何歳なんですか?」
王宮への帰り道、アーシャが唐突に訊いてきた。
「二十歳だよ」
アデルは特別隠す事もなく、素直に答えた。自らが仕える人に嘘を言う必要もない。
「二十歳ですか……それなら、クルス様と同じですね」
「クルス様?」
エトムートだけでなく、新たに男の名前が出てきて、思わず息が詰まる。しかも、今度は様付けである。王女である彼女が敬称を付けるという事は、彼女と同等かそれ以上の身分のものだろうか。
勘弁してくれ、というのがアデルの正直な感想だった。