(アーシャとエトムートって、どんな関係なのかな?)

 エトムートは、元は大陸の奥地にあるラトニア公国の騎士だそうで、今はルベルーズ領主・ダニエタン伯爵の養子となっている。ゲルアード帝国に祖国ラトニア公国を滅ぼされ、そのままヴェイユ王国に亡命してきたのだと言う。
 亡国の騎士で、ヴェイユ島の西側を統治するダニエタン伯爵の養子──アーシャの婿として、この上ない人物である。実際に、次期国王はエトムートでは、という噂もある程だ。
 こうしてエトムートを実際に見てみると、アーシャにお似合いな気がしてならない。

(くそ……自分の生まれを呪ったのは、初めてだ)

 胸の中に芽生えた嫉妬の心がアデルの心を蝕んでいく。
 フィーナと仲間を失い、この地に来た。それは、自分に新たな居場所を提供してくれたアーシャ王女がいたからだ。
 全てを失った彼には、アーシャを守る事しかもう人生の意義を見出せない。
 しかし、彼女を守る者は、アデル以外にも数多いる。逆に、アーシャの婿になれる男はそう多くない。その事実が今、アデルに重くのしかかっていた。
 それから試合は長く続いたが、決着が着いた。勝者はベルカイム領のロスペールだ。
 ロスペールは倒れたエトムートに手を差し伸べ、二人は互いの健闘を称え合っている。会場は拍手で溢れていて、とても気持ちの良い試合だと思えた。ロスペールにしてもヴェイユ王国最強の聖騎士の異名を守れたというところだろう。
 しかし、アデルの目には別の様に映っていた。
 ロスペールとエトムートは予め、或いは戦いのさ中に打ち合わせたのではないか、と感じたのだ。アデルには最後の一撃の際、エトムートがわざと攻撃を受けていた様に見えたのである。
 ロスペールはこの国に生まれた生粋の騎士に対して、エトムートは亡国の騎士だ。養子である亡国の騎士が、この国最強の騎士を倒してしまうのは、どうにも勝手が悪い。この国の為にも、そして国民の為にもロスペールが勝つ事が好ましいのだ。そして、エトムートもそれをわかっているからこそ敢えて最後の攻撃を受けた、という事だろう。

(そこまで国や国民の為を想えるなら……余計にアーシャにぴったりだな)

 アデルは余計にそんな想いを感じてしまい、胸に痛みを覚えるのだった。
 まだアーシャは十五だ。しかし、成人の儀は済ませており、もう成人として扱われている。彼女がいつ結婚するのかについてはわからない。
 いつかは彼女の花嫁姿を見る事になる。

(その時、俺はどんな気持ちを抱くんだろうな?)

 その場面を想像するだけで、フィーナを()()()()()()()()()()()になって、吐き気を感じた。