競技会は順調に進んで行った。アデルの目から見ても、決勝戦以外は見る価値がないな、というものだった。
 優勝候補と言われている二人の騎士──ベルカイム領の聖騎士ロスペールとルベルーズ領の亡命騎士エトムート──が圧倒的に強く、他の戦士とでは勝負にならないからである。この二人はシード選手なので、決勝まであたる事はない。この二人を脅かすほどの出場者もいなかったので、アデルはアーシャの警護を優先して周囲に気を配っていた。
 そして決勝戦まで進み、二人の騎士達が入場してきた。騎士と言っても、競技会では馬の使用は禁止されているので、二人共馬には乗っていない。

「エトムート、頑張って下さ~い!!」

 アーシャがエトムートに声援を送り、エトムートもそれに気付いて、彼女の方へ手を振っていた。
 エトムートは茶髪の長髪をしていて、切れ長の目をしているが整った顔立ちをしている良い男だった。その容姿からか、女性人気が高く、黄色い声援が多かった。対して、ベルカイム領の聖騎士ロスペールは無骨で如何にも強者という感じのスキンヘッドの大男だった。ヴェイユ最強の聖騎士という異名があるそうで、男性からの人気はロスペールの方がありそうだ。というより、エトムートの女性人気が凄いのであいつを負かせて欲しい、というのが男達の本音だろう。

(俺が出場していてエトムートと当たっていたら、アーシャはどっちを応援するんだろうな)

 アデルはふとそう考えている自分に気付いた。考えても仕方ないのに、そんな事を考えてしまう自分が嫌になる。
 アデルが自己嫌悪に陥っている間に、試合は始まっていた。互いに槍を使った戦いな様で──と言っても実際は槍ではなく木の長い棒である──距離の取り合いと、鋭い突きの応酬だ。
 実力は拮抗しており、ほぼ互角と言ったところだろうか。細かいフェイントを入れ合い、自分の得意な距離を奪い合っている。今回は競技会なので槍を模した木の長い棒で戦っているが、これが本物の槍であれば、もっと緊迫した戦いとなっていただろう。

(凄いな、この二人は)

 アデルは率直にそう思った。
 ここヴェイユは戦火に見舞われる事なく、平和な国である。この国であれほどの腕を磨くには、並大抵の努力ではないだろう。強い練習相手もいない中、そして実戦経験を詰める経験もない環境だ。おそらく、自己鍛錬のみで実力を磨いているのだろう。彼らの努力は計り知れない。
 アーシャは闘技場での戦いをハラハラした様子で見守っていた。