ーーー その日も相変わらず、仲睦まじそうに2人並んで登校をしている。

周りから見れば、贔屓目なしカップルと呼んでも、何も違和感はない。それでも、実際は違う。

きっと純也くんは、私の告白が小さなトラウマになっているのだろうと、私は考察している。

それと同時に、やっと巡り会えた大切と思える人とのこの関係を、その一言で壊してしまうのが怖いのだと思う。

無理もない。それもこうして、純也くんの前から消えてしまった私の責任でもある。だからこそ、私はこのお節介をやり遂げなくてはいけないのだ。

この数年間。私はただ、怠惰に幽体で過ごしてきた訳じゃない。ある程度の物なら、直接手に触れる事ができるようになっていた。

無論、人間に触ることは不可能だが、起こそうと思えば、ポルターガイストのひとつやふたつ起こす事だって出来た。

ペンを持って、紙に言葉を綴り、意思疎通だって出来る。

ただ、それは、私という存在を認識させるような行為で、純也くんが前に進むための枷になってしまう。

そんな事は絶対にしたくなかった。これが、私に出来る、せめてもの罪滅ぼしだと思ったからだ。

だから、折角物にしたこの力を、使うタイミングはそうそう来ないだろうと思っていた。

しかし、意外な形で使う日が来るとは。

「さぁ、バッタさん。私の手の平においで」

私は道端で元気よく跳躍する一匹のバッタを手の平に乗せる。

「ごめんね。三葉ちゃん。でもこれは、純也くんと、三葉ちゃんのためなの!」

そうして、そのままバッタが逃げぬように、手の平を三葉ちゃんの肩の近くまで近づけて、バッタを促すように、ちょいとおしりを叩いてあげる。

するとバッタは、目に見えぬ力に怯えたようにして、身近な避難地である、三葉ちゃんの肩に飛び移る。

「キャッ!!」と三葉ちゃんは可愛らしい声をあげる。

その驚いた勢いのまま、純也くんの腕に吸い込まれて行き、綺麗に狙った構図が出来上がる。

急な展開にわかりやすく動揺している純也くん。久しく見ていなかったそんな姿に、嬉しさと共に、少しの痛みの熱が帯びる。

「ふふっ。正に恋のキューピッドね! いや、天使にはなれないか 」

そんなひとりごとは、ひとりごとのまま、鬱陶しいほど青く、清々しいほど広い空に昇って消えていく。

ーーー 私にとっては2度目の授業となるわけで、比較的、授業中は暇な時間となる。

唯一楽しみな時間といえば、体育の時間だろう。どんなスポーツだろうと、気だるげにそつなくこなす純也くんの姿は、何度拝んでも惚れ惚れとしてしまう。

きっとこの場の誰よりも、その時間を楽しみにしている私にとって、純也くんのいつも違う様子には、敏感に気づく事が出来た。

いつも積極的に参加しようとはしないタイプとはいえ、今日はいつも以上に、心ここにあらずといった様子に見えた。

サッカーの試合中というのに、白線ギリギリに立ち、呆けている姿は、ひと際目立っていた。

それが災いしてしまったのだろう。同じチームとなったクラスメイトががら空きとなった、純也くんへと鋭いパスを飛ばす。

その無駄のない動きはおそらくサッカー部員のものだろう。

ボールの勢いも落ちること無く、コントロール良く純也くんに一直線だ。

それにも関わらず、純也くんの焦点はボールに一切向いていない。

このままでは危ないと、誰もが危機察知能力を発揮させる。

クラスメイトの「純也!」「危ない!」という声が響いて、ようやっと純也くんは現実へと帰還する。

それでも、もう遅い。このままでは純也くんの綺麗な゙顔に傷がついてしまう。

気がつくと私は動き出していた。

人に干渉することは出来なくとも、物になら触れられる。

スーパーナチュラル。きっとそう捉えられる事だろう。この高校にまたひとつ怪談が増えるかもしれない。

そんな事は些細で、私はただひとつの信念の赴くままにサッカーボールに触れた。