ーーー 夕陽が水面に反射して、万華鏡を覗いたかのような、美しいアートを浮かばせている。
「純也くん、こんにちは。もう、こんばんわかな? 」
河川敷に敷きつめられた、コンクリートブロックに腰を落ち着かせて、そんな水のスクリーンに目を奪われていた、純也と呼ばれた少年は、不意にかけられた、柔らかい声色に顔を向ける。
「八重お姉ちゃん。こんばんは。学校終わったの?」
「うん! 今日は、顧問の先生がお休みだったから、部活も早上がりだったんだ」
純也は今年で10歳という歳を越え、八重は、17歳という分岐点の手前の歳を迎えていた。
小学生と高校生。普段なら帰宅時間が被ることはない2人だが、今日のように、イレギュラーな早帰り、テスト期間が訪れば、こうして、示し合わせた訳でもなく、この河川敷で鉢合わせる事は多かった。
もともと、家も近所ということもあり、所謂、歳の離れた幼馴染だった2人は、本当の姉弟のような関係を築いていた。
「純也くんは、ここで何をしていたの?」
「ううん。何もしてないよ。ただ、八重お姉ちゃんに会えるかもしれないと思って、待っていただけだよ」
純也は、無垢に笑みを浮かべる。
「え? もしかして、毎日ここで待っていてくれてるの?」
「…………うん」
純也の表情は、夏の始まりの気候のように、コロコロと装いを変え、今は、頬を赤らめさせながら俯いている。
「ふ〜ん。そうだったんだね。ありがとうね。でも、お姉ちゃんは、いつもはもっと遅いんだから、待って無くてもいいんだよ。テスト期間とかなら、いいんだけど」
「違うよ。僕はね、待っていたいから待っているんだよ。だから、ありがとうは違うよ」
純也の濁りない誠実を向けられた八重は、その愛おしさから思わず、右手を純也の頭の上に乗せて微笑む。
「純也くんは本当に良い子だね〜。こんなに良い子で、かっこいい子なら、クラスの女の子から、モテモテでしょ?」
きめ細やかな手の平で頭を撫でられた純也は、嬉しさと恥ずかしさで、更に頬をピンク色に染めるも、その八重の言葉に、口をムッと尖らせる。
「そんな事ないよ。もし、そうだとしても、嬉しくないもん。僕は、クラスには好きな子は居ないから」
「ふ~ん。クラスには、ね」
純也の本音のこもったニュアンスに、悪戯心を掻き立てられた八重は、ニヤニヤと純也の顔を覗き込む。
「うん。クラスにはいないよ。だって、僕は………」
その刹那、純也は勢いよく立ち上がると、真っ直ぐに八重を見据える。
「僕は、八重お姉ちゃんが好きだから!!」
それは、純也にとっての初恋で。純也にとっての特別な言葉。
八重は一瞬驚いたように目をまん丸と見開くも、直ぐ様、穏やかな笑みを浮かべる。
「ありがとう純也くん。でもね、純也くんはきっと、これから、色んな人に出会って、色んな経験をしていくと思うの。だから、今はまだ焦らなくていいんだよ。もし、そうだな〜、あと7年。今の私と同じ歳になった時、それでもまだ、私を好きでいてくれたなら、その時は、またその言葉をお姉ちゃんに頂戴。今度はちゃんと、お姉ちゃんも向き合って気持ちを返すから」
純也のそんな人生初めての告白は、そんな曖昧さを残して、夕陽が彩る河川敷に溶けていった。
「純也くん、こんにちは。もう、こんばんわかな? 」
河川敷に敷きつめられた、コンクリートブロックに腰を落ち着かせて、そんな水のスクリーンに目を奪われていた、純也と呼ばれた少年は、不意にかけられた、柔らかい声色に顔を向ける。
「八重お姉ちゃん。こんばんは。学校終わったの?」
「うん! 今日は、顧問の先生がお休みだったから、部活も早上がりだったんだ」
純也は今年で10歳という歳を越え、八重は、17歳という分岐点の手前の歳を迎えていた。
小学生と高校生。普段なら帰宅時間が被ることはない2人だが、今日のように、イレギュラーな早帰り、テスト期間が訪れば、こうして、示し合わせた訳でもなく、この河川敷で鉢合わせる事は多かった。
もともと、家も近所ということもあり、所謂、歳の離れた幼馴染だった2人は、本当の姉弟のような関係を築いていた。
「純也くんは、ここで何をしていたの?」
「ううん。何もしてないよ。ただ、八重お姉ちゃんに会えるかもしれないと思って、待っていただけだよ」
純也は、無垢に笑みを浮かべる。
「え? もしかして、毎日ここで待っていてくれてるの?」
「…………うん」
純也の表情は、夏の始まりの気候のように、コロコロと装いを変え、今は、頬を赤らめさせながら俯いている。
「ふ〜ん。そうだったんだね。ありがとうね。でも、お姉ちゃんは、いつもはもっと遅いんだから、待って無くてもいいんだよ。テスト期間とかなら、いいんだけど」
「違うよ。僕はね、待っていたいから待っているんだよ。だから、ありがとうは違うよ」
純也の濁りない誠実を向けられた八重は、その愛おしさから思わず、右手を純也の頭の上に乗せて微笑む。
「純也くんは本当に良い子だね〜。こんなに良い子で、かっこいい子なら、クラスの女の子から、モテモテでしょ?」
きめ細やかな手の平で頭を撫でられた純也は、嬉しさと恥ずかしさで、更に頬をピンク色に染めるも、その八重の言葉に、口をムッと尖らせる。
「そんな事ないよ。もし、そうだとしても、嬉しくないもん。僕は、クラスには好きな子は居ないから」
「ふ~ん。クラスには、ね」
純也の本音のこもったニュアンスに、悪戯心を掻き立てられた八重は、ニヤニヤと純也の顔を覗き込む。
「うん。クラスにはいないよ。だって、僕は………」
その刹那、純也は勢いよく立ち上がると、真っ直ぐに八重を見据える。
「僕は、八重お姉ちゃんが好きだから!!」
それは、純也にとっての初恋で。純也にとっての特別な言葉。
八重は一瞬驚いたように目をまん丸と見開くも、直ぐ様、穏やかな笑みを浮かべる。
「ありがとう純也くん。でもね、純也くんはきっと、これから、色んな人に出会って、色んな経験をしていくと思うの。だから、今はまだ焦らなくていいんだよ。もし、そうだな〜、あと7年。今の私と同じ歳になった時、それでもまだ、私を好きでいてくれたなら、その時は、またその言葉をお姉ちゃんに頂戴。今度はちゃんと、お姉ちゃんも向き合って気持ちを返すから」
純也のそんな人生初めての告白は、そんな曖昧さを残して、夕陽が彩る河川敷に溶けていった。