「ママ!パパ!」
元気よく叫ぶ私の声。まだ、早夏は生まれていない。
「瑞月?速いね。マラソン選手にでもなったら?」
「うん!なる!」
その時、私はお母さんを喜ばせたくて言った。将来の夢の事なんて考えたことすら無かったのに…。
「瑞月、瑞穂。これ」
お父さんが遠慮がちに差し出したのは、きれいな貝殻だった。その綺麗さに私はうっとりしていた。
「パパ!ありがとう!」
「瑞月、瑞月は凄い子だ。お父さんとお母さんの子だ」
「ほんと?ありがとう!」
その無邪気な声が私をイライラさせた。
あの時は、優しかった。でも、早夏が生まれ私に対する態度はガラリと変わった。
正直、早夏を恨んだ。早夏のことにしか眼中に無くて怪我をしても私の方が重症でも早夏を真っ先に手当をする。
私のことを見ると、お姉ちゃんなんだから自分で出来るよねという眼で見てきて悲しかった。
私のことを見てほしくて"いい子"の私を演じた。でも、最近は歯止めが効かなくなっている。だから、自傷行為をして精神を落ち着けなくてはならなかった。
でも、いくらあの頃に戻りたくても戻れない。
ふと、目を開けると視界の端に本を読んでいる男性がいた。
「だ、誰?」
え、とでも言うかの顔をして私の方向を男性が見た。
「君、いたんだ」
「へ?」
間抜けな声を出す私とは裏腹に淡々と言うその男性。
「ごめんなさい、邪魔です、よね?」
「いや、別に…」
何だろう、どこか懐かしい。初対面なのに…。
「明日も来るのか…?」
「えっと、はい。一応…」
「そうか…」
聞いておいて返答は淡白でシンプルだった。
「名前、言ってなかったな…」
「あ、そうですね…。あ、わ、私石川瑞月です…」
「瑞月、か…。俺は、輪島翔だ…」
翔、さん。かっこいい名前…。
私の名前を名乗ったとき、どこか思い悩んでいたな。どうしたんだろ?
「なぜ、この海に…?」
「ある人を俺は、待っている。海で20年前約束した人がいて、な…。その人を今も…」
「そうなんですね…」
「瑞月は?」
呼び捨てで呼ばれたことに驚きつつも、相槌を打った。
「瑞月は…、」
翔さんは、私の名前を呼んだ。だけど、口を噤んでしまった。何を、言おうとしていたのだろう。
「瑞月。俺のことは、翔ちゃんって呼んで」
「し、翔ちゃん?」
見るからに年上の男性をちゃん付けで呼ぶなんて、ハードル高いなぁ。
「そうだ。瑞月、呼んでみて」
「翔ちゃん」
「ん、ありがとう」
ぶっきらぼうではあるが優しい彼に、心が浄化されていく。
それに、胸が高鳴っている。
こんな気持ちは、初めてだ。
翔ちゃん、か。
可愛い。
ープルルルルルー
着信音がしたから発信源を探すと私のスマホでディスプレイにはお母さんと書いてあった。
嫌だったけれど、の応答ボタンをすると、真っ先にお母さんの声が耳を貫いた。
「瑞月!?今どこにいんのよ!?」
「海」
「はぁ?海って。勉強の時間よ!?」
はぁとこれみよがしに溜め息を付かれた。
「分かった…」
「それでいいのよ、貴方は馬鹿なんだからしっかりしないとね!」
そう言い残され、通話を切られた。
「大丈夫か?瑞月」
「行き、たくない…。帰りたくないっ!」
どうあがいても、未来は変わらない。
いい子でいるのも、もう疲れたよ…。
「じゃあ、サボるか」
"サボる"という選択肢が私の中になくて驚きで顔をあげた。
「やりたくないなら、やらなくて良いじゃん」
「そう、なの?」
「当たり前だろ。俺だって、やりたくないときやんねぇもん」
「翔ちゃんは、凄いね。私、いつの間にか自分の意見を失ってた」
もう、帰るねと言い、帰った。
元気よく叫ぶ私の声。まだ、早夏は生まれていない。
「瑞月?速いね。マラソン選手にでもなったら?」
「うん!なる!」
その時、私はお母さんを喜ばせたくて言った。将来の夢の事なんて考えたことすら無かったのに…。
「瑞月、瑞穂。これ」
お父さんが遠慮がちに差し出したのは、きれいな貝殻だった。その綺麗さに私はうっとりしていた。
「パパ!ありがとう!」
「瑞月、瑞月は凄い子だ。お父さんとお母さんの子だ」
「ほんと?ありがとう!」
その無邪気な声が私をイライラさせた。
あの時は、優しかった。でも、早夏が生まれ私に対する態度はガラリと変わった。
正直、早夏を恨んだ。早夏のことにしか眼中に無くて怪我をしても私の方が重症でも早夏を真っ先に手当をする。
私のことを見ると、お姉ちゃんなんだから自分で出来るよねという眼で見てきて悲しかった。
私のことを見てほしくて"いい子"の私を演じた。でも、最近は歯止めが効かなくなっている。だから、自傷行為をして精神を落ち着けなくてはならなかった。
でも、いくらあの頃に戻りたくても戻れない。
ふと、目を開けると視界の端に本を読んでいる男性がいた。
「だ、誰?」
え、とでも言うかの顔をして私の方向を男性が見た。
「君、いたんだ」
「へ?」
間抜けな声を出す私とは裏腹に淡々と言うその男性。
「ごめんなさい、邪魔です、よね?」
「いや、別に…」
何だろう、どこか懐かしい。初対面なのに…。
「明日も来るのか…?」
「えっと、はい。一応…」
「そうか…」
聞いておいて返答は淡白でシンプルだった。
「名前、言ってなかったな…」
「あ、そうですね…。あ、わ、私石川瑞月です…」
「瑞月、か…。俺は、輪島翔だ…」
翔、さん。かっこいい名前…。
私の名前を名乗ったとき、どこか思い悩んでいたな。どうしたんだろ?
「なぜ、この海に…?」
「ある人を俺は、待っている。海で20年前約束した人がいて、な…。その人を今も…」
「そうなんですね…」
「瑞月は?」
呼び捨てで呼ばれたことに驚きつつも、相槌を打った。
「瑞月は…、」
翔さんは、私の名前を呼んだ。だけど、口を噤んでしまった。何を、言おうとしていたのだろう。
「瑞月。俺のことは、翔ちゃんって呼んで」
「し、翔ちゃん?」
見るからに年上の男性をちゃん付けで呼ぶなんて、ハードル高いなぁ。
「そうだ。瑞月、呼んでみて」
「翔ちゃん」
「ん、ありがとう」
ぶっきらぼうではあるが優しい彼に、心が浄化されていく。
それに、胸が高鳴っている。
こんな気持ちは、初めてだ。
翔ちゃん、か。
可愛い。
ープルルルルルー
着信音がしたから発信源を探すと私のスマホでディスプレイにはお母さんと書いてあった。
嫌だったけれど、の応答ボタンをすると、真っ先にお母さんの声が耳を貫いた。
「瑞月!?今どこにいんのよ!?」
「海」
「はぁ?海って。勉強の時間よ!?」
はぁとこれみよがしに溜め息を付かれた。
「分かった…」
「それでいいのよ、貴方は馬鹿なんだからしっかりしないとね!」
そう言い残され、通話を切られた。
「大丈夫か?瑞月」
「行き、たくない…。帰りたくないっ!」
どうあがいても、未来は変わらない。
いい子でいるのも、もう疲れたよ…。
「じゃあ、サボるか」
"サボる"という選択肢が私の中になくて驚きで顔をあげた。
「やりたくないなら、やらなくて良いじゃん」
「そう、なの?」
「当たり前だろ。俺だって、やりたくないときやんねぇもん」
「翔ちゃんは、凄いね。私、いつの間にか自分の意見を失ってた」
もう、帰るねと言い、帰った。