幼き頃から繰り返し観る夢があるのと同時に歳を重ねていくとその年齢と同じくらいの女の子が私の夢に出てくる。
彼女の名前は、有紗。
でも、本当の私の名前は、石川瑞月(いしかわみつき)
全然、違う名前なのにどこか懐かしいと感じるようになったのは5歳の頃だ。
「瑞月ー!朝だよー!」
階下から声がするのは、私のお母さん石川瑞穂(いしかわみずほ)
オシャレで、元看護師の経歴を持つお母さんは頭がとても良い。でも、口うるさいから嫌い。
「はーい…」
伸びをして、下に降りると妹の早夏(はやか)がパンを咀嚼していた。
「おはよう…」
「おはよう!」
欠伸をして手ぐしで髪を整えると顔を洗いに行った。
冷たい水が頬を打ち付けて、少し私を不快にさせる。
リビングに戻るとパンの上にスクランブルエッグとキウイフルーツがあった。
なんというか、栄養満点という気がする。
ウトウトしていると、お母さんに早く食べなさいと怒られた。
低血圧なんだから、少しは大目に見てよと心のなかで愚痴を言った。
「ごちそうさま」
「ちょっと〜!瑞月!全然食べてないじゃない!朝ご飯は、大事なんだからね!分かった!?」
はぁ、と溜め息を付いた。
少食な事は、お母さん知っているし、卵嫌いなのも知ってるくせに。なんで、そんな言い方すんのよ!?
「分かったよ」
「あ、あんたねぇっ!」
私の言葉に怒ったみたい。

ーパシンッ!ー
一瞬何が起こったのか分からなかったが頬が痛かったので平手打ちされたのだと分かった。
「な、何すんのよ!?」
「あんたみたいなのヘラヘラ返事嫌いよ!早夏を見習いなさい!」
また出た、早夏。
そりゃそうだよね。早夏は、私とは違う。頭も運動神経も良い。でも、その絶大な期待から自分の意見を失っている。私が救いの手を差し伸べようとすると要らないと言う。どこまでも、私の味方は居ないんだ。
お父さんもそう。
お父さんは、お母さんと早夏しか眼中に無い。
私がどんなに頑張ったって褒めたことなんてない。むしろ、「当たり前すぎる」と皮肉を言うだけ。
そんな家族に心底うんざりだ。家出したい。早夏、早夏、早夏。
もううるさい。私の居場所なんてどこにもないんだー。
「もう、いいよ…。お母さんも、お父さんも…。私、何で産んだのよ…」
ポツリと呟いた言葉がお母さんは聴こえなかったらしく、早く行けと言った。