「よお、久しぶりだな。元気にしてたか?」
豚ヅラ晒して歩くな! って怒られっちまった。
こいつ会う度に俺に説教しやがるな。
ま、俺が悪いんだがよ。
「お久しぶりね。私の事も覚えてくれてるかしら?」
俺の背に隠れていた勇者がピョコンと飛び出した。
北の国の騎士が、え、あ? え? なんつって狼狽てやがる。
ふふ、笑っちまう。
勇者の奴、忘れられてるじゃないか。
騎士の家でまた、酒と飯を出された。
なんだかんだで、コイツと会うと大抵ご馳走してくれる。
良いやつだよな。
魔王はどうしたか、だって?
「ああ、あのガリガリは先に魔国に帰った。何だか準備があるらしい」
オマエもガリガリじゃないか、という視線を無視して俺は、胸に抱えた息子にスプーンを使って食事を与えながら、今度は俺が魔王になるらしい事を説明した。
「息子だ。ちょっと鼻が上向いてはいるが、可愛いだろう?」
まさかアンタと勇者様がねぇ、なんて言いやがるが、コイツの事をすっかり忘れてやがったクセによ。
「ねえ、貴方たち仲良しみたいだし、こちらの方にも魔国に来て貰ったらどうかしら?」
勇者がまた考えなしに適当な事を言うもんだから、騎士のやつ途轍もなく動揺してるぞ。
可哀想なくらいの動揺っぷりだ。
騎士だなんて言っちゃあいるが、はっきり言ってコイツ、弱いからな。
弱いクセに、強い正義感と謎の肝っ玉を持った、可笑しなハンサム野郎だ。
「でも、ま、お前にしては良い案かも知れないな」
俺は手を伸ばし、勇者の頬についた米粒を摘んで、俺の口に放り込んでから、そう言った。
「あら、ありがと。豚の魔物の貴方が魔王、人族の私が魔王夫人になるのだもの。ならお客様には人族も居た方が良いと思うの」
本当にいつもの俺の嫁かよ。
よく分からんがなんとなく説得力がある気がする。
どうしたんだオマエ、変なものでも喰ってないだろうな?
◇◇◇◇◇
魔国の森は、分かりやすい道ができて良い。
俺が斬り飛ばしただけだから、切り株だらけだがな。
魔国の王城に辿り着いたんだが、全然思ってたのと違う風景が広がっていた。
あろう事か、魔王が牢に入れられていた。
牢の外にいるのは四天王のうちの三人。
ぱっと見は、終わってる。
魔王的には。
「……よう豚マン。嫌な所を見られちまったな」
哀愁漂う雰囲気を醸すのは止して欲しいぜホント。
「まぁ、そういう時もあるわよね」
勇者がぞんざいに慰めるが、勇者的には全力で慰めているらしいのが俺にはよく分かる。
「ま、なんだ。とにかくどういう状況か教えてくれないか?」
◇◇◇◇◇
魔国四天王の一人目、豚の魔物の彼が説明してくれた。
ま、結論で言えば、魔王が悪い。
俺を次の魔王に指名する、魔国に戻っていきなりそう説明したらしいが、魔王になるには二通りあって、その二つとは、突出した武力を示すか、国民の同意を得るか。
現国王に任命権は無いんだと。
それを聞いて、暴れて、取り押さえられたそうだ。
魔王、バカだよな。
因みに魔国四天王の最後の一人、この間うるさかったアイツは、忠誠が厚すぎて魔王と一緒に暴れて、一緒に牢に入ってる。
四天王の一人目は豚の魔物、
二人目は鳥の魔物、
三人目は首なし騎士、
そして五月蝿い四人目は牛の魔物。
五月蝿いのはミノタウロスぐらいで、他の三人はどちらかと言えば寡黙。
首なし騎士に至っては筆談だ。
連中はキチンと魔国の事を考えてる。
こいつらに任せて置けば、そうおかしな事にはなるまい。
しばらくは魔国に滞在して様子を見るが、俺の出る幕はないだろう。
当然、それならそれで良い。
俺は、連中が出した答えを受け入れる。
◇◇◇◇◇
すっかり萎れた食人鬼を牢から引き取って宿を取った。
俺、勇者、息子で一部屋。北の国の騎士と魔王で一部屋だ。
喰われないと分かっていても、なんと言っても相部屋相手が食人鬼。
ソワソワしっぱなしの騎士だったが、翌日の朝には慣れたらしい。
魔王の肩を叩いて慰めたりしてやがる。
相変わらず凄い奴だ。
結局、次の魔王には、四天王の中からオークが選ばれた。
俺に簡単にコテンパンにされた位で武力的には大変頼りないが、融和路線で魔国を運営するらしい。
新魔王と話す機会があった。
風の噂で、南の方のオークの村が人族と商売していると聞いたらしい。
その村の様にここ魔国を運営したいが、その村の事を知らないか? だとさ。
笑っちまうぜ。
それ、俺の村だよ。
何年か魔国に滞在して、色々と手助けした。
牧畜や農業なんかも元々やってた様だが、効率や環境などイマイチだったから、俺が知ってる事は全て教えてやった。
さらに、北の国の騎士にも骨を折って貰って、北の国と魔国を和解させた。
北の国の、魔国に対する悪感情は相当なものだったが、『魔国に属する魔物はもう人を喰わない』と明文化した事、二国の戦争にはどちらにも侵略の意思があった事など挙げ連ねて、最終的に和解へと至った。
俺や勇者も第三者として会談に出席したが、魔物と勇者の夫婦がその子を連れてるんだ、人族と魔物が歩み寄れる良い証になった事だろう。
「魔王夫人にはなり損ねたけど、なんだかんだで皆んな喜んでくれて嬉しいわねー」
良い事言うじゃないか。
誰かの役に立つってのは、そういう事だよな。
魔王になんざならなくても、俺は俺らしく、誰かの役に立てばそれで良いんだ。
「それじゃ、ま、村に帰るか」