『殿下の身分はロベニア国第2王子ですが、お相手もまたロベニア国で四公と称されるロブール公爵家の第1公女です。
そしてまだお気づきになっておりませんか?
殿下や他家の令息、ロブール家の夫人と養女がどれほど軽んじても、当主が軽んじたと耳にした事は1度としてありません。
次期当主となるその兄君も妹君への発言は痛烈ですが、その発言に耳を傾ければ軽んじた内容だった事は1度としてありません。
何を意味するか、おわかりですか?』
2年の学年主任に言われて初めて気づく。
『私は何かを見誤っている、のか?』
そうだ。
ロブール公爵と直接話す機会はこれまで公式の場以外無かったが、兄のミハイルは違う。
同級生で同じ生徒会役員だ。
だが私達の間にはどこか距離があり、妹への無才無能の発言に同調した事は1度としてない。
いつも兄である彼の同調が欲しくて物足りなさを感じていたから間違いない。
ただ静観し、こちらを窺うだけ。
同じ教室で授業を受け、同じ生徒会室で役員の仕事をするだけの関係だ。
シュアと呼ぶように言ったものの、当初はなかなか呼んで貰えず、公の社交の場で断れない状況に追いこんでから呼ばれるようになった。
側近になって欲しいとの頼みはいつもすげなく断られてきた。
『私は殿下を諌めるつもりはないので側近には成りえません』
いつもそう言われて断られる。
今更ながらにあの言葉の意味に思い当たる。
間違いなくあの時背後にいた私の自称側近達を私ごと批判していたという事だろう。
『それは貴方がロベニア国第2王子としてお考え下さい。
既に答えは出てらっしゃるようですが、少なくともご自分の婚約者がどのような方なのか、貴族社会でこんなにも無才無能と悪評高いのは何故なのかを知る良い機会でしょう。
ただし今回の一件についてロブール公女が王子殿下より一方的な暴力を受けたのは明白。
これまでとは話が完全に別です。
貴方のご両親である両陛下への報告は申し上げた通り、致します。
我々学園側にも学園たる立場がある。
王立であろうとも他の生徒に示しがつかない事はできません。
意味はおわかりですね?』
学園内での王族のあからさまで理不尽な権力の行使は認めない。
私達4年の学年主任はそう言いたいのだろう。
『もちろんだ』
『ロブール公女が普段あなたが口にするように立場を以てして正式に動くようならば、貴方が何者であっても学園として何かしらの沙汰は下す事になります』
『……わかっている』
沙汰、か。
まるで稀代の悪女であり、王族の恥部たるベルジャンヌになった気分だ。
あれもかつてこの学園で権力を傘にロベニア公爵先代当主夫人を貶め続け、諌めようとした婚約者であるロブール先代当主や当時の学園の教師達に暴言を吐き続けたという。
その様は醜悪極まりない悪女だったと未だに語り継がれているが、同じ王族である私もそう見えていたんだろうか。
そう考えていたら、4年の学年主任が私としっかり目を合わせ、姿勢を正した。
『ジョシュア=ロベニア。
君が入学してからの4年間、君の学年の主任を務める教師として学生である君に改めて注意する。
今一度自分を見つめ直せ。
そして周りの言葉に惑わされず、今一度、己の目で周りも見つめ直せ。
今の君は君が忌避するベルジャンヌ王女のように、その身を滅ぼしかねん』
『……わかりました。
先生、ご注意、感謝します』
話を締めくくり、一礼してその場を後にした。
すぐにあいつと婚約してからの報告書を持って来るよう使いを出す。
本来王族の婚約者には影と呼ばれる護衛兼お目付け役がつく。
あいつも例外ではなく、当初は影がついていた。
ロブール夫人があいつを魔法で傷つけた時の報告もこの影からだ。
今は必要な時以外、影はつけられていない。
影をつけるのは、ある意味では王家が認めたという証であり特権だ。
妃教育も自らの意志で行わず、拐われたところで王家の有益な情報すらも知らぬ者につける事は許されない。
王家としてはこれほどまでに政略結婚に非協力的な公女に万が一があるなら、それはそれでやむ無しとした。
一応正式にそれを事前通達もしたらしいが、あいつの態度は変わらなかった。
そしてまだお気づきになっておりませんか?
殿下や他家の令息、ロブール家の夫人と養女がどれほど軽んじても、当主が軽んじたと耳にした事は1度としてありません。
次期当主となるその兄君も妹君への発言は痛烈ですが、その発言に耳を傾ければ軽んじた内容だった事は1度としてありません。
何を意味するか、おわかりですか?』
2年の学年主任に言われて初めて気づく。
『私は何かを見誤っている、のか?』
そうだ。
ロブール公爵と直接話す機会はこれまで公式の場以外無かったが、兄のミハイルは違う。
同級生で同じ生徒会役員だ。
だが私達の間にはどこか距離があり、妹への無才無能の発言に同調した事は1度としてない。
いつも兄である彼の同調が欲しくて物足りなさを感じていたから間違いない。
ただ静観し、こちらを窺うだけ。
同じ教室で授業を受け、同じ生徒会室で役員の仕事をするだけの関係だ。
シュアと呼ぶように言ったものの、当初はなかなか呼んで貰えず、公の社交の場で断れない状況に追いこんでから呼ばれるようになった。
側近になって欲しいとの頼みはいつもすげなく断られてきた。
『私は殿下を諌めるつもりはないので側近には成りえません』
いつもそう言われて断られる。
今更ながらにあの言葉の意味に思い当たる。
間違いなくあの時背後にいた私の自称側近達を私ごと批判していたという事だろう。
『それは貴方がロベニア国第2王子としてお考え下さい。
既に答えは出てらっしゃるようですが、少なくともご自分の婚約者がどのような方なのか、貴族社会でこんなにも無才無能と悪評高いのは何故なのかを知る良い機会でしょう。
ただし今回の一件についてロブール公女が王子殿下より一方的な暴力を受けたのは明白。
これまでとは話が完全に別です。
貴方のご両親である両陛下への報告は申し上げた通り、致します。
我々学園側にも学園たる立場がある。
王立であろうとも他の生徒に示しがつかない事はできません。
意味はおわかりですね?』
学園内での王族のあからさまで理不尽な権力の行使は認めない。
私達4年の学年主任はそう言いたいのだろう。
『もちろんだ』
『ロブール公女が普段あなたが口にするように立場を以てして正式に動くようならば、貴方が何者であっても学園として何かしらの沙汰は下す事になります』
『……わかっている』
沙汰、か。
まるで稀代の悪女であり、王族の恥部たるベルジャンヌになった気分だ。
あれもかつてこの学園で権力を傘にロベニア公爵先代当主夫人を貶め続け、諌めようとした婚約者であるロブール先代当主や当時の学園の教師達に暴言を吐き続けたという。
その様は醜悪極まりない悪女だったと未だに語り継がれているが、同じ王族である私もそう見えていたんだろうか。
そう考えていたら、4年の学年主任が私としっかり目を合わせ、姿勢を正した。
『ジョシュア=ロベニア。
君が入学してからの4年間、君の学年の主任を務める教師として学生である君に改めて注意する。
今一度自分を見つめ直せ。
そして周りの言葉に惑わされず、今一度、己の目で周りも見つめ直せ。
今の君は君が忌避するベルジャンヌ王女のように、その身を滅ぼしかねん』
『……わかりました。
先生、ご注意、感謝します』
話を締めくくり、一礼してその場を後にした。
すぐにあいつと婚約してからの報告書を持って来るよう使いを出す。
本来王族の婚約者には影と呼ばれる護衛兼お目付け役がつく。
あいつも例外ではなく、当初は影がついていた。
ロブール夫人があいつを魔法で傷つけた時の報告もこの影からだ。
今は必要な時以外、影はつけられていない。
影をつけるのは、ある意味では王家が認めたという証であり特権だ。
妃教育も自らの意志で行わず、拐われたところで王家の有益な情報すらも知らぬ者につける事は許されない。
王家としてはこれほどまでに政略結婚に非協力的な公女に万が一があるなら、それはそれでやむ無しとした。
一応正式にそれを事前通達もしたらしいが、あいつの態度は変わらなかった。