自然に出た言葉と動作。違和感はない。
 だが、僕はそこに猛烈な違和感を抱いてしまった。
 今の彼女の動作と言葉は、僕が夢の中でここで本を読んでいると伝えた時と同じ反応だったのだ。
 さすがに、夢と全く同じ反応をされるとビビる。僕の()()()側はどれだけ再現度が高いのだろうか。
 そう逸る自分を、『いやいや、冷静に考えろって。有り得ないから』と御す。
 現実的に考えて、教室での彼女の動作や癖を無意識のうちに脳内が記憶していて、()()()側に反映されているだけだ。同じ夢を見ているなんて、有り得ないのだから。
 同じ夢、かぁ。どうせなら、僕も花村さんも()()()側のものをこっちで再現できたらいいのに。
 そんな夢みたいなことを思わず思い浮かべてしまい、僕は頬に苦い笑みを広げる。
 ()()()側の僕と花村さんは、友達の中でもかなり親しい部類に入る。夢で毎晩語り合っているうちに、自然と親しくなった。
 夢の中の彼女のことなら、たくさん知っている。
 実は小説を読むのが好きなこと。でも、周りにいる友達は皆本を読まないので、話せる人がいないこと。邦画よりも洋画のB級以下のマイナーなホラー映画が好きなこと。お互いの趣味なんかもこうして話し合っていて……そのひとつが、今朝買ったこの本だった。
 それに……あっち側とこっち側には、もう一つ大きな違いがある。
 先程彼女は僕のことを『上崎くん』と呼んだが、夢の中で彼女は僕を『涼吾(りょうご)』と名前呼びをする。僕も同じく、夢の中では『六花』と呼んでいた。
 それは、彼女からの提案だった。苗字だとどこか余所余所しく感じる、友達ならもっと親しく呼び合うべきだ、と。
 僕もそれに同意し、名前で呼び合う仲となった。
 でも、きっとそれは僕の願望が夢で出ただけなのだろうな、と思っている。つくづくと気持ち悪い。せめて夢の中だけでもかっこよくありたかった。