「上崎くんってさ、いつもここで本読んでるでしょ?」
「え!?」

 唐突な問い掛けに、思わず声が上ずりそうになった。
 何で僕がここで本を読んでるのを知ってるんだ。()()()では誰にも話してないのに。
 困惑する僕を他所に、花村さんは続けた。

「どうして知ってるのかって? だってそこ、私の通学路だから。よくこんな暑いところで本読めるなーって思ってたんだよね」

 彼女は相変わらず楽しそうに笑って、土手の上を指差した。

「あっ……そうなんだ」

 その答えに、僕はどこか安堵したような、そしてどこかがっかりしたような気持ちになって、小さく息を吐く。
 一瞬、昨日の夢での会話を彼女が知っているのかと期待してしまった。僕が誰かにここで本を読んでいると話したのは、夢の中の彼女だけなのだ。でも、通学路だったのなら話は別。ただの偶然だろう。

「……僕、ここ好きなんだよね」
「こんなに暑いのに?」
「うん。暑いけど、何も考えなくていい気持ちになるっていうか。家も、進路とか受験のこととかで親がずっとうるさいし。それなら外の方がいいかなって」

 部屋のクーラーも壊れてるしね、と僕は肩を竦めてみせた。
 何だか、昨日の夢の中でも同じようなことを言っていた気がする。

「あー、わかるわかる。うるさいよね、親」

 花村さんはこくこくと二度ほど頷いた。
 が──僕の方はと言うと、彼女の言葉とその動作に息を詰まらせていた。