どうしてそんな顔をしているのだろうか? やっぱりこいつってこんな感じか、と自分の予想が当たったことに笑っている?
 だとしたら、とても悔しい。きっと教室にいる時の僕から容易に想像できる反応をしてしまっているだろう。彼女の予想を裏切ることさえできない。
 花村さんから話し掛けてくれるなんて、奇跡みたいなものなのに。というか、夏休みに会えただけでも奇跡だ。そのチャンスを活かすこともできない自分に腹が立つ。
 でも、それも仕方ないだろう、と言い訳してしまう自分もいた。
 花村さんはクラスでも人気者で、いつでも人に囲まれているような女の子だ。いつも教室の隅っこでひとり本を読んで時間が過ぎることを願っている僕とは、住んでいる世界が違う。
 そんな僕が、教室で陽気に彼女に話してみろ。それこそ好きバレしてしまって避けられるかもしれないし、クラスの男子達から面白おかしくネタにされてしまえば、もはや僕の学校生活は終焉を迎える。
 ()()()()()、あんなに簡単に花村さん……いや、()()とも話せるのに。()()()()()は、てんで言うことを聞いてくれない。
 夢の中の自分とリアルの自分の違いに呆れていると、花村さんは再びその翠色の瞳をこちらに向けた。