「まあ、確かにね」

 花村さんは困ったように眉を下げると、僕の視線を追って、川の向こう岸へと顔を向けた。
 僕らの間にある気まずい沈黙を、鉄橋を走る電車の音が掻き消していく。鉄の車輪がレールを叩くたびに低い轟音が響き、居心地の悪さを一層際立てていた。
 電車が走り去ると、残るのは沈黙と蒸し暑さ。
 先程まで心地よさを感じていた川のせせらぎも、鉄橋の下を吹き抜けていく夏風も、今の僕にとってはいずれも不快感を齎すものでしかなかった。気まずさも相まって、じわりと汗が顎を伝って落ちていく。
 はあ……やっぱり、僕はダメだな。
 夢の中ならあれだけ饒舌に彼女と話せるのに、待望の()()()()()()との会話では、全然言葉が出てこない。
 でも、こっそり彼女の横顔を覗き見て、そこに少しの違和感があることに気付く。
 僕の塩対応に、本来なら花村さんはもっと退屈そうな顔をしていたり、不快そうにしていたりしてもおかしくない。でも、川の対岸を眺める彼女は、目を細めて僅かに微笑んでいるように思えたのだ。