そう思って、現実の()()が到底読みそうにないこの本に視線を落とそうとした時──ふわりと甘い香りがした。そして、隣からこんな声が聞こえてきたのだ。

「やほ、上崎くん」

 ()()()()()()()()()()()()その声に驚いて反射的に顔を上げた時には、僕の喉からはひゅっと情けない音が漏れていた。
 それもそのはず。クラスメイトの花村(はなむら)六花(りっか)──僕が密かに憧れている女の子だ──がちょこんと僕の隣に腰掛けていたのだ。

「は、花村さん!? どうして……」
「さあ、どうしてでしょう~?」

 彼女は悪戯っぽく笑って、自らの手に顎を乗せた。
 ()()()と同様のその無邪気な笑みに、胸がきりきりと痛む。
 ああ、やめてくれ。そんな風に、その笑顔で僕を見つめないでくれ。
 ()()()の君と話すだけで、僕は満足してるんだ。()()()の君と話すのは慣れてない。いや……それよりも、()()()()()期待してしまうのが、嫌なんだ。
 僕らは、本来交わらない人間なのだから。