夏色に溶けた僕らの夢は

 それにしても、彼(・)女(・)はどうしてこの本を薦めたのだろう──? 
 僕は手元の本を見下ろし、怪訝に眉を顰める。
 手元にある本は所謂ライト文芸と呼ばれるジャンルの作品で、普段僕が読む類のものではなかった。実際、僕はこの本についてその存在さえも知らなかったのだ。それなのに、今朝偶然本屋で見掛けたこの本を手に取り、レジに向かっていた。
 そう。僕はこのジャンルの本も読まないし、この新刊の情報も、存在も知らなかった。もちろん調べた覚えもない。
 でも、僕は今朝の時点で、この本のタイトルを知(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)。
 それは……昨夜見た夢の中で、彼(・)女(・)がおすすめしてくれたからだ。まさか夢の中に出てきた本のタイトルが実際にあるとは思わず、本屋で見掛けて思わず買ってしまった。
 これまでも夢の中の彼(・)女(・)から本をおすすめされたことはあったが、どれも僕が知っているタイトルだったのだ。
 実に不思議な感覚。どこかでこの本のことを見ていて、それで夢に出てきたのだろうか?
 まあ、そんなことはどうでもいい。普段読むジャンルとは違う本と出会えたのは嬉しいし、実際にこの本はとても面白い。また夢の中で彼(・)女(・)と会った時の会話のネタにでもすればいい。