「あー楽しい。ありがとね、涼吾」
僕の返答を待たず、彼女が言葉を紡いだ。
「私、こんな風に自分の好きなものを話せる友達なんていなかったからさ。ほんと感謝してる」
「友達ならいっぱいクラスにいるじゃんか」
「あれって友達なのかなー? 自分隠して、好きなもの偽って、周りに話合わせて……そんなのばっかだよ。きっとそれに疲れちゃったから、あっちで涼吾と巡り合えたのかもしれないね?」
僕の腰をぎゅっと抱き締めて、六花が感慨深げに呟いた。
それには何も答えず、ただペダルを漕ぎ続ける。
きっと、それは僕も同じだ。
君と話したいと願っていたから。君と仲良くなりたいと願っていて、君がどんなものが好きなのかずっと知りたかったから。そんな僕らの願いが交わって、あの幻が実現した。そうは考えられないだろうか。
いや……正直、もうそんなことはどうでもいいか。
こうして僕らはこっちの世界で交わった。もう、夢で会う必要もないのだから。
「ねー、涼吾。今年の夏は、楽しいことがたくさんありそうだね?」
背中越しに、六花が嬉々として訊いてくる。
僕はどこか恥ずかしい気持ちを隠したまま、相変わらずぶっきらぼうに「だといいね」と返した。
そんなの、わざわざ確認するまでもない。
君と過ごす夏はきっと素敵で。僕にとってはかけがえのないものになって。おそらくこの先、一生忘れないだろう。それはもうわかりきっているのだから。
僕らの夢は夏色に溶けていって──〝今〟を彩る。
現実逃避の夢は、もう要らない。
(了)
僕の返答を待たず、彼女が言葉を紡いだ。
「私、こんな風に自分の好きなものを話せる友達なんていなかったからさ。ほんと感謝してる」
「友達ならいっぱいクラスにいるじゃんか」
「あれって友達なのかなー? 自分隠して、好きなもの偽って、周りに話合わせて……そんなのばっかだよ。きっとそれに疲れちゃったから、あっちで涼吾と巡り合えたのかもしれないね?」
僕の腰をぎゅっと抱き締めて、六花が感慨深げに呟いた。
それには何も答えず、ただペダルを漕ぎ続ける。
きっと、それは僕も同じだ。
君と話したいと願っていたから。君と仲良くなりたいと願っていて、君がどんなものが好きなのかずっと知りたかったから。そんな僕らの願いが交わって、あの幻が実現した。そうは考えられないだろうか。
いや……正直、もうそんなことはどうでもいいか。
こうして僕らはこっちの世界で交わった。もう、夢で会う必要もないのだから。
「ねー、涼吾。今年の夏は、楽しいことがたくさんありそうだね?」
背中越しに、六花が嬉々として訊いてくる。
僕はどこか恥ずかしい気持ちを隠したまま、相変わらずぶっきらぼうに「だといいね」と返した。
そんなの、わざわざ確認するまでもない。
君と過ごす夏はきっと素敵で。僕にとってはかけがえのないものになって。おそらくこの先、一生忘れないだろう。それはもうわかりきっているのだから。
僕らの夢は夏色に溶けていって──〝今〟を彩る。
現実逃避の夢は、もう要らない。
(了)