「ま、待って。それって……嘘でしょ?」
「ね、私もびっくりした。こんなことってあるんだねー」

 あーよかった、と花村さんは安堵した様子で息を吐いて、目を細めた。
 彼女も半信半疑、或いは可能性が高いくらいの感覚で話し掛けて、会話の中で確信をしたのかもしれない。

「花村さんは、いつから気付いてたの? あの夢がリアルの僕と──」
「違うでしょ?」

 花村さんは僕の言葉を遮って、『な・ま・え』と口だけ動かしてみせた。
 意図を察し、声が上ずらないように少しだけ間を置いてから、訊き直す。

「り、()()()いつからあの夢とリアルが繋がってるって気付いてたのさ?」

 夢の中と同じ呼び方をすると、六花は嬉しそうに顔を綻ばせた。
 まさか、現実でこの名前を呼ぶ日が来るなんて思ってもいなかった。あっちでも初めて呼んだ時は緊張したけれど、現実での緊張はその比でない。
 
「確信したのはついさっき。でも、前から薄々そうじゃないかなーって思ってたよ? だって、今月に入ってから、夢の中で私がおすすめした本ばかり読んでたもんね。あと、私のことよく見てたし」
「──ッ!?」

 一気に顔が沸騰しそうになった。
 そう。今月に入ってから教室で読んでいた本は、夢の中で六花からおすすめされた本ばかりだった。大体は有名な作品で、名前だけ知ってて手を出していなかった本ばかりだったから、これを機に読んでいたのだ。
 ちなみに、こっそり彼女の方をよく見ていたのは夢を見る前からだ。それに気付いたというのは、ただ夢を通して彼女が僕という存在を認識し始めたからだろう。それはそれで、ちょっと恥ずかしい。