「さて、上崎くん。ここで問題です」

 花村さんはすくっと立ち上がると、ズボンのお尻あたりをぱんぱんと叩いて埃を払った。 
 そして、こちらを振り返ると、どこか悪戯な笑みを携えて、こう尋ねた。

「私はここまでの会話の中で、嘘を吐いています。どれが嘘だったでしょう?」
「え? 嘘?」

 唐突に出された問題に、思わず首を傾げる。
 初めて話したも同然の仲なのにやけに親しげだな、と思う気持ちと、どこに嘘があったのだろう、という怪訝な気持ちが交じり合っていた。
 思い返してみても、特に不自然なところはない。

「……ごめん、わからない」

 正直に答えると、花村さんは「じゃあ、ヒントね」と言って、こう続けた。

「私の母校は、西中学校です」
「西中?」

 その単語を訊いて、僕はますます眉間に皺を寄せた。
 西中学校は、僕が通っていた東中学とは真逆の位置にあって、ここからはかなり離れている。バスで数駅といったところだろうか。
 一体彼女の母校に関連する話がこれまでのどこにあっただろうか。意味がわからない。からかわれているのだろうか?
 と、そこまで考えてからはたと思いつく。

「……ここが通学路じゃない、とか?」

 僕の答えに、花村さんがにやりと笑った。
 どうやら正解だったようだ……って、ちょっと待った。
 じゃあ、どうして彼女は僕がここにいるのを知っていたんだ?

『上崎くんってさ、いつもここで本読んでるでしょ?』
『どうして知ってるのかって? だってそこ、私の通学路だから。よくこんな暑いところで本読めるなーって思ってたんだよね』

 さっき、花村さんはこう言っていた。
 この言葉から鑑みる限り、彼女の通学路がこことは真逆の位置にあるのはおかしい。
 重ねてそれを尋ねようと口を開こうとすると、彼女は人差し指を自らの唇に当てて、僕に静粛にするように訴えかけた。