『やぁやぁ、皆の衆。出迎えご苦労。ふはーっはっはっはっは』
どうしてこうなったんだろう?
昨夜、魔導レンジを見せてからずっと、ヴァルゼさんは僕に質問しっぱなしだった。
レンチンしたときに失敗した料理はどんなものか、どうして失敗したのか、なぜ今まで料理以外でレンチンしようとしなかったのか。
そして朝を迎え、一度町に戻ると言ったら……ついて来た。
地縛霊じゃなかったの!?
だから最初、僕らが町に戻ると言った時寂しそうにしていたんじゃないか。
あの時は一緒に来なかったじゃないか!
当然のように町の人にも見えているから、みんな奇異の目で見ている。
ただ悲鳴が上がったり、怯える人がいないのは不幸中の幸いなのかもしれない。
まぁ怖い、とは思わないよね。こんな陽気な幽霊なんだから。
でもなんとなく、憐れむような視線を向けられているようでいたたまれない。
この視線はヴァルゼさんに向けられているものなのか、それとも僕に……。
屋敷に到着すると、さっそくハンスさんが後ずさる。
「どこで拾ってこられたのですがこのゴースト!?」
「えっと、坑道で」
『はっはっは。犬や猫やスライムじゃないのだから、拾ってきたは失礼だろう少年』
スライムって拾って来るものなんだ?
「詳しい話は中でします」
「か、畏まりました。まずは疲れをお取りください。湯あみの準備は整えておりますので」
「ありがとうございます」
お風呂に入ってさっぱりしよう。
「って、なんでヴァルゼさんもいるんですか!?」
『それはだな少年。吾輩は少年に憑りついてしまったのだ』
「……え?」
『研究への未練が、吾輩をゴーストに変えた。そして今、吾輩は少年という存在への興味で溢れている!』
「……え?」
『つまりはだ、あくなき探求心により、吾輩は少年の背後霊にジョブチェンジしたのだよ。ぬわーっはっはっは』
え……どうしてそんなことになるの?
あと服着たまま湯船に浸からないでください!!
じゃあ、地縛霊だったはずの人がうろうろしているのは、彼がうろうろしているんじゃなくって僕にくっついてきただけってこと?
うああぁぁぁ、どうしてぇぇぇっ。
・
・
・
「ってことのようです」
「なんっって迷惑な幽霊じゃ」
「お祓いをしましょう」
「チェリーチェに言って下の町から神官をお呼びいたしましょう」
『吾輩は善良な幽霊ぞ。酷いではないか。なぁ少年よ』
善良な幽霊って言葉、初めて聞いた。
とりあえずお祓いは――
「冗談です」
『うぬよ、その顔で冗談だったのか?』
「はい。冗談を言う顔をしてたつもりですが」
フ、フレドリクさん、冗談だったの?
うぅん。僕にはまだわからない。彼が本気なのか冗談なのか。
「じょ、冗談でしたか。ははは」
「あれ、どうしたんですかハンスさん?」
「いえ、なんでもございません」
ん? なんかあたふたしているような……は!
チェリーチェさんがもう出発しちゃったんじゃ……。
「それで、どうなさるのですかデュカルト様」
「あ、うん。不便ではあるけど、僕はこのままでいいですよ。ヴァルゼさんが魔導具の研究がしたい。ボクらは魔導石の錬成、それに魔導具の開発が出来れば町を発展させられる。お互いの利益は一致しています。ですので、彼の知識を貸していただきたいと考えています」
『ふふ、よかろう。吾輩、少年のスキルに可能性を見出しておる!』
「僕のスキルに、ですか?」
ただの料理スキルだと思っていたけど、食材以外にも調理《・・》できることがわかった。
どこまでのものを、どんな風に調理できるのかはこれから検証していかなきゃならない。
それが可能性ってことなら、どんな可能性があるのか確かに興味がある。
「三日三晩も!?」
魔導鉱石を、実際に魔導具のエネルギー石に錬成するには、三日三晩かけてゆっくりじっくり溶かさなきゃならないそうだ。
その過程でミスリル銀を加える。その量は一度に1グラム。
実はここが重要らしく、ミスリル銀の量が多くても少なくてもダメらしい。
ミスリル銀を加え、固まらないようにずーっと混ぜ続ける。
途中で色が濃くなり出したらまたミスリル銀を加える。
それを繰り返していくと、だんだんと透明感が出てくるそうだ。
半透明になったら精錬終了。
完成した溶液を鋳型に流し込んで形を整えれば、魔導石になる。
「なかなか面倒くせぇな」
「ずっとかき混ぜなきゃならないんでしょ? 溶けた鉱石を、どうやって混ぜるの?」
「そこは問題ねぇ。魔導鉱石は低温で溶けるから、なんだったら木の棒でもいいんだよ」
『ドワーフの言う通りだ。魔導鉱石の融解温度は120℃。故に木の棒でかき混ぜても問題はない』
「そう、なんだ。じゃがずーっと混ぜてなきゃダメなのよね?」
ルキアナさんの質問にヴァルゼさんが頷く。
「何人か交代で番をすることになるな」
そう言うとドズルさんは、腰から一本のナイフを取り出した。
「こいつぁミスリル銀制の小型ナイフだ。使うことがまったくねぇから、今回はこいつを溶かそうと思ってな」
「ちょ、え、待ってくださいっ。ミスリル銀のナイフなんて、いったいいくらすると思っているんですか!?」
「軽く金貨二十枚はするでしょう」
「そうです。フレドリクさんの言う通りです。金貨二十枚と言ったら、四人家族の一般市民の半年以上が暮らせる金額なんですよ!」
日本円で換算すると、ざっと二五〇万から三〇〇万といったところかな。
「いいんだよ。使ってねぇんだから。それに魔導鉱石の錬成は、なにがなんでも、俺たちの手で成功させなきゃならねぇ。成功させりゃあ、金貨二十枚なんざあっという間に元が取れるだろ」
「……そう、ですね。魔導鉱石の錬成を、なんとしてでも成功させましょう」
「あぁ、もちろんだ。ま、その前に鉱石の採掘を進めなきゃな。今はこの前見せたアレしかねえからよ」
あぁ、そうだった。
まずは坑道の整備かなぁ。
どうしてこうなったんだろう?
昨夜、魔導レンジを見せてからずっと、ヴァルゼさんは僕に質問しっぱなしだった。
レンチンしたときに失敗した料理はどんなものか、どうして失敗したのか、なぜ今まで料理以外でレンチンしようとしなかったのか。
そして朝を迎え、一度町に戻ると言ったら……ついて来た。
地縛霊じゃなかったの!?
だから最初、僕らが町に戻ると言った時寂しそうにしていたんじゃないか。
あの時は一緒に来なかったじゃないか!
当然のように町の人にも見えているから、みんな奇異の目で見ている。
ただ悲鳴が上がったり、怯える人がいないのは不幸中の幸いなのかもしれない。
まぁ怖い、とは思わないよね。こんな陽気な幽霊なんだから。
でもなんとなく、憐れむような視線を向けられているようでいたたまれない。
この視線はヴァルゼさんに向けられているものなのか、それとも僕に……。
屋敷に到着すると、さっそくハンスさんが後ずさる。
「どこで拾ってこられたのですがこのゴースト!?」
「えっと、坑道で」
『はっはっは。犬や猫やスライムじゃないのだから、拾ってきたは失礼だろう少年』
スライムって拾って来るものなんだ?
「詳しい話は中でします」
「か、畏まりました。まずは疲れをお取りください。湯あみの準備は整えておりますので」
「ありがとうございます」
お風呂に入ってさっぱりしよう。
「って、なんでヴァルゼさんもいるんですか!?」
『それはだな少年。吾輩は少年に憑りついてしまったのだ』
「……え?」
『研究への未練が、吾輩をゴーストに変えた。そして今、吾輩は少年という存在への興味で溢れている!』
「……え?」
『つまりはだ、あくなき探求心により、吾輩は少年の背後霊にジョブチェンジしたのだよ。ぬわーっはっはっは』
え……どうしてそんなことになるの?
あと服着たまま湯船に浸からないでください!!
じゃあ、地縛霊だったはずの人がうろうろしているのは、彼がうろうろしているんじゃなくって僕にくっついてきただけってこと?
うああぁぁぁ、どうしてぇぇぇっ。
・
・
・
「ってことのようです」
「なんっって迷惑な幽霊じゃ」
「お祓いをしましょう」
「チェリーチェに言って下の町から神官をお呼びいたしましょう」
『吾輩は善良な幽霊ぞ。酷いではないか。なぁ少年よ』
善良な幽霊って言葉、初めて聞いた。
とりあえずお祓いは――
「冗談です」
『うぬよ、その顔で冗談だったのか?』
「はい。冗談を言う顔をしてたつもりですが」
フ、フレドリクさん、冗談だったの?
うぅん。僕にはまだわからない。彼が本気なのか冗談なのか。
「じょ、冗談でしたか。ははは」
「あれ、どうしたんですかハンスさん?」
「いえ、なんでもございません」
ん? なんかあたふたしているような……は!
チェリーチェさんがもう出発しちゃったんじゃ……。
「それで、どうなさるのですかデュカルト様」
「あ、うん。不便ではあるけど、僕はこのままでいいですよ。ヴァルゼさんが魔導具の研究がしたい。ボクらは魔導石の錬成、それに魔導具の開発が出来れば町を発展させられる。お互いの利益は一致しています。ですので、彼の知識を貸していただきたいと考えています」
『ふふ、よかろう。吾輩、少年のスキルに可能性を見出しておる!』
「僕のスキルに、ですか?」
ただの料理スキルだと思っていたけど、食材以外にも調理《・・》できることがわかった。
どこまでのものを、どんな風に調理できるのかはこれから検証していかなきゃならない。
それが可能性ってことなら、どんな可能性があるのか確かに興味がある。
「三日三晩も!?」
魔導鉱石を、実際に魔導具のエネルギー石に錬成するには、三日三晩かけてゆっくりじっくり溶かさなきゃならないそうだ。
その過程でミスリル銀を加える。その量は一度に1グラム。
実はここが重要らしく、ミスリル銀の量が多くても少なくてもダメらしい。
ミスリル銀を加え、固まらないようにずーっと混ぜ続ける。
途中で色が濃くなり出したらまたミスリル銀を加える。
それを繰り返していくと、だんだんと透明感が出てくるそうだ。
半透明になったら精錬終了。
完成した溶液を鋳型に流し込んで形を整えれば、魔導石になる。
「なかなか面倒くせぇな」
「ずっとかき混ぜなきゃならないんでしょ? 溶けた鉱石を、どうやって混ぜるの?」
「そこは問題ねぇ。魔導鉱石は低温で溶けるから、なんだったら木の棒でもいいんだよ」
『ドワーフの言う通りだ。魔導鉱石の融解温度は120℃。故に木の棒でかき混ぜても問題はない』
「そう、なんだ。じゃがずーっと混ぜてなきゃダメなのよね?」
ルキアナさんの質問にヴァルゼさんが頷く。
「何人か交代で番をすることになるな」
そう言うとドズルさんは、腰から一本のナイフを取り出した。
「こいつぁミスリル銀制の小型ナイフだ。使うことがまったくねぇから、今回はこいつを溶かそうと思ってな」
「ちょ、え、待ってくださいっ。ミスリル銀のナイフなんて、いったいいくらすると思っているんですか!?」
「軽く金貨二十枚はするでしょう」
「そうです。フレドリクさんの言う通りです。金貨二十枚と言ったら、四人家族の一般市民の半年以上が暮らせる金額なんですよ!」
日本円で換算すると、ざっと二五〇万から三〇〇万といったところかな。
「いいんだよ。使ってねぇんだから。それに魔導鉱石の錬成は、なにがなんでも、俺たちの手で成功させなきゃならねぇ。成功させりゃあ、金貨二十枚なんざあっという間に元が取れるだろ」
「……そう、ですね。魔導鉱石の錬成を、なんとしてでも成功させましょう」
「あぁ、もちろんだ。ま、その前に鉱石の採掘を進めなきゃな。今はこの前見せたアレしかねえからよ」
あぁ、そうだった。
まずは坑道の整備かなぁ。