『魔導石は低温で融かさねばならぬ』
「それはわかった。だが既存の魔導石のように透明にならねーんだ」
『融かす過程でミスリル銀を混ぜる必要があるのだ』
「んだと!?」

 夜遅くに、ドワーフの里長ドズルさんがやってきて、ヴァルゼさんと魔導石の錬成についてあれこれ話している。
 ミスリル銀を混ぜなきゃ、あの色にならないのか……。
 それはなかなか厳しいなぁ。
 ミスリル銀の採掘量は極端に少ないから、値段も物凄く高い。
 魔導石錬成のためにどこからか仕入れるとなると、採算がとれるか心配だ。

『投入するミスリル銀は一度に1グラムまで。それを何回か繰り返し、半透明になれば完成だ。だいたい鉱石1キロに対して、ミスリル銀3グラムといったところか』
「なんでぇ、量的にはそう多くねえってことか。とはいえ、ミスリル銀がどんだけ貴重か、わかってんのか?」
『ふっ。知らん!』
「威張って言ってんじゃねえよ」
『だがそれも心配いらぬ。ここの鉱山には、魔導鉱石の鉱脈の他にも、ミスリル銀の鉱脈もあるはずだ』

 はず?

「ヴァルゼさん。はずってことは、見たことはないってことですか?」
『うむ。生前、吾輩が地質調査をして、ミスリル銀の鉱脈があるとわかったのだが……そこで邪魔が入ったのだ』
「邪魔?」
『吾輩の才能を妬んだ者が、吾輩を亡き者にしようとしたのだよ。ま、その計画は見事成功したわけだ。最後に聞いたのは爆発音。おそらく大部分は崩落したであろうな』
「道理でこの辺りの壁は、不自然な積もり方してたわけだ」

 魔導鉱石の鉱脈は確かにある。ヴァルゼさんが生きていた当時から採掘が行われていたから。
 ミスリル銀はどうか……。
 出てこなければ、買ってくるしかない。その時は精錬済みの魔導石の販売価格で調整しないとなぁ。

「ね、魔導石の精錬が出来るようになったら、あの転移魔導装置も使えるようになるのじゃろ?」
「そのはずです。使えますよね、ヴァルゼさん」
『うむ。その装置はいつごろまで使っておったのだ』
「つい最近、最後の運転をしたばかりです」
『では問題なかろう。何十年、何百年と経っていれば、メンテナンスが必要になったであろうがな』

 メンテナンス……そっか。石を交換すればいいって訳じゃないんだ。
 
「そういえば、魔導具の中にはハズレも多々あると聞いたことがあります。発掘された魔導具い多いといますね」
「そうなんですか?」

 フレドリクさんが頷く。
 魔導具は鉱石のように発掘によって見つかるものと、迷宮や遺跡の宝箱から見つかるものとある。
 前者の方が壊れている場合が多い――と、フレドリクさんは聞いたことがあるそうな。

『それはおそらく、箱そのものに魔法が施されているのだろう。中身を保管するためのな』
「壊れにくくするとか、そういった感じのですか?」
『そうだ。土の中に埋まっていれば、当然汚れる。その汚れが魔力の伝達を阻害して、魔導具を壊してしまうこともある。ま、そういったものでも修繕すれば使えるようになるがな』

 壊れても使えるのか……まてよ、ってことは――

「壊れた魔導具をかき集めれば……」
「壊れた魔導具を? ぉ、おおぉ! そうだぜ坊ちゃん。壊れて使えねぇ魔導具なら、安く買い叩けるじゃねえか」
「はいっ。それを修理して、新しい魔導石を嵌めてやれば、売り物になります!」
「じゃが、どうやって修理するのじゃ? そんな技術――あ」

 気づいたルキアナさんが、ヴァルゼさんを見る。
 魔導具の研究者である彼なら、修理の方法だって知っているはず。

『くく、くはははははーは。目の付け所が良いな少年よ。そうとも。吾輩の手にかかれば、どんな魔導具だって新品同様に修理可能!』
「やっぱり!」
『だが!!』

 え、だが?

 ブワサァッとローブを翻し、ヴァルゼさんが……膝を抱えて座り込んだ。

『吾輩……幽霊になってしまったから、物質に触れられないのである』

 え……。

『これでは研究も続けられない! あああぁぁぁぁぁっ。生きている者が羨ましい! 魔導石に触れられて、羨ましいぞおぉぉぉ!!』

 う、羨ましいって……ん?
 もしかして坑道で聞こえたあの「うら……しぃ」っていうの、もしかして「恨めしい」じゃなくって「羨ましい」だった!?

『だがまぁ、ここにはドワーフどもがおる。彼らに技術を伝えることはできよう』
「そりゃ助かるぜ」
『だから吾輩のために、魔導具の研究を引き継いでくれ! 吾輩はさらなる魔導具を作り出したいのだ!!』
「研究は面倒くせー」
『んなぁーにぃー!?』

 ドズルさんはそう言うと、持ってきた荷物の中からポットを取り出した。お茶にするのかな?
 ヴァルゼさんが隣でずっと叫んでるけど、我関せずだ。
 なんだかちょっとかわいそうな気もする。

 魔導具の研究かぁ。いったいどんなことをするんだろう。
 もし新しい魔導具が開発できるとかだったら、やる価値は十分あると思う。