ーー放課後。
 今日は日直だったため、職員室まで日誌を届けに行ってから学校を出た。

 午前中は晴れていたのに、いまは薄暗い雲に覆われている。
 それに加えて普段よりも生徒数が少ない帰り道。
 お気に入りのワイヤレスイヤホンが壊れているから虫の音がいまのBGMに。
 徒歩で家路に向かっていると、20メートルほど前方に降谷くんが一人で歩いていた。

 降谷くんはいま一人だし誰も見てないから、……声をかけちゃおうかな。
 学校じゃないから気軽に声をかけてもそんなに嫌がられないよね。
 そう考えているうちに、彼は分かれ道で自宅と反対方面を曲がった。

「あ、あれっ? 寄り道でもするのかな」

 もしかしたら近所に住んでいた可能性もあるけど、彼が私の家に来てからまだ1週間弱。
 それなのに、地図アプリで道を検索する様子もなく足を進めていることに違和感を覚えて尾行する。


 5分ほど歩いて到着したのは保育園の前。
 外遊びをしている園児たちの元気な声が辺りを賑やかせている。

 どうして降谷くんが保育園へ? 実は保育士に憧れているとか?
 うーん……。絵を描くことが好きなのは知ってるけど、子ども好きだとは感じなかったなぁ。
 彼と少し距離を置いて遠目から眺めていたが、目は一点方向しか見つめていない。
 そこに何かを感じて彼のとなりについた。

「ねぇ、どこを見てるの? もしかして、室内にいるあの美人な保育士さん?」

 足音を立てなかったせいか、彼は私がとなりにいることにひどく驚く。

「……なに、俺のストーカーしてんの?」

 彼はそう言うと、不機嫌そうにUターンする。
 私は置いて行かれないように急ぎ足で追いつく。

「そっ、そういうわけじゃなくてたまたま気になったというか……」
「なわけ無いだろ。何度も言ったけど、俺はお前に気がないから」
「そんなに何度も言わなくてもわかってるよ(ちぇっ)。でもさ、園内にいた保育士さんめっちゃキレイな人だったよね。色白で、細くて、髪を後ろでアップにしていて、目鼻立ちがくっきりしていて、遠目から見てもパッと目を引く存在だよね」
「うん、そう。……あいつ、俺の好きな人」
「えっ」
「だから、もう俺につきまとわないで」

 彼は吐き捨てるようにそう言うと、歩く速度を上げた。
 取り残された私はポツンと置いてけぼりに。

 ガアアアァァァアン……。
 失恋決定。既にしてるけど、決定……。
 先日焼津くんに、降谷くんは女につきまとわれるのが苦手と聞いたばかりだったから、てっきり好きな人はいないんじゃないかと思っていたのに。
 しかも、その好きな人がレベチの美人なんて。
 トホホ……。