「5度目の正直っ! 降谷くん、好きですっっ!! 今度こそ私と付き合って下さい!!」
「無理」
「そ、そんなぁ〜〜っ!! 無理とは言わずに……」
「……」

 チーーーーーン…………。

 ――長い夏休みがあけた始業式の今日。
 場所は私がいま通っている高校の校門の一歩手前の通路。

 下校時刻を狙って意中の彼に5回目の告白をしたが、彼は耳に蓋をしているかのようにスタスタと横を通り抜けていく。
 一方通行な片想いは出口の見えないトンネルそのもの。
 無関心な背中を眺めたままガクッと肩を落とした。

 ああぁぁあ……、またフラれちゃった。
 今日こそ……、今日こそはイケると思っていたのに。

 彼は同級生で高校三年生の降谷涼(ふるやりょう)くん。
 金髪の前髪で少し隠れている瞳はぱっちり二重で、少しぽってりしたあひる口、白い肌に黄金バランスのパーツの学校一のイケメン。
 校内では言わずとも知れた有名人で、歩くだけで黄色い声のトンネルの花道が出来るほど。

 私は入学前から彼が好き。
 4度の失恋を乗り越えて『今回こそは』と期待を込めて告白したのに、5度目もあっさり玉砕してしまうなんて。

「うっ、うっ、うっ、うっ…………。わかっちゃいるけど、精神的ダメージ半端ない……」

 額を押さえながら校門に向かってふらふら歩いていると、「塚越(つかごし)み〜つき! 大丈夫かぁ〜?」と、聞き覚えのある声が後ろから届き、私の首に腕を絡ませてきた。
 横目を向けると、そこには親友 りんかが。

「り……りんかぁぁあ〜〜っ!! また降谷くんにフラれちゃったよぉぉ〜〜」
「だから言ったでしょ。降谷は絶対に無理だって。4回フラれた時点で脈がないことに気づかないと」
「それでも5度目の正直を信じてたの〜っ! 告白を断ったあとに『やっぱり塚越さん可愛かったな〜』って後悔してたかもしれないと思って」
「……あんたの頭ん中どれだけ妄想を膨らませてたのよ。確かにあんたは華奢だし、ショートボブヘアでまぁるい目をして顔も上の下だと思ってるけど、相手は降谷でしょ。勝ち目がないの」
「ううっ……」
「そもそもあいつは次元が違うのよ。見ていてわかるでしょ、あのモテっぷりが」

 彼女の言う通り、降谷くんは高嶺の花。
 学校のアイドルそのもので、他の男子とは別格だということ。
 モテることを鼻にかけない……というより、女子に無関心なイメージ。
 表情筋を動かしてるところをいままで見たことがない。

「……い〜い? 時には諦めも必要なの。あんたにはあんたにピッタリの人が必ずいるはずだから、狭い視野を通り抜けて広い世界を見ていこうよ。これからたくさん色んな男子と出会って、交際に発展して……」
「そんなの無理! 絶対に降谷くんじゃなきゃ嫌! この学校を受験する時に、受験会場で消しゴムを家に忘れたことに気づいて困っていたら、降谷くんが自分の消しゴムをちぎって半分くれた時に運命感じちゃったんだもん!」
「出た出た、そのエピソード。入学直後に降谷に『消しゴムのことを覚えてますか?』って聞いたら、『覚えてない』って言われたやつでしょ?」
「……あのさ。夢、壊さないでよ。あの時は本当に王子様が現れたと思ったんだから」
「現実でしょ。げ・ん・じ・つ! ちょっと優しくされたくらいでコロっと傾かないでよ」
「だってだって〜、あの時は本当に嬉しかったんだもん!!」

 彼が歩けば自然と花道ができる。そして、両指を絡ませながらうっとりと彼を眺める女子たち。
 夢のような消しゴムのエピソードはあっても、残念ながら私も彼女たちの一員。



 ……のはずが!!
 それから数時間後、とあることがきっかけでひとつ屋根の下で彼と暮らすことになるなんて……。