はっきりと否定されて、なぜかほっとした。安心するために訊いたつもりなんてなかったのに。

「まあ、トントンみたいに身長あって、顔がよかったらいいなとは思うけど。あいつなら……そういう経験もちゃんとありそうだし。や、わかんないけど。あいつそういう話はぜったいしないから」

「そういう話?」

「あ、いや……」

 三埜くんは言葉を濁してゼリーをかき込んだ。そういえばこないだ、「おれ、ちゃんとできてる?」と訊かれた。最初はなんのことかわからなかったけれど、申し訳なさそうに丸まった背中を見て、そういうことかと悟った。

 こういうのはフォローしたところであまり意味はないだろうし、逆効果だろう。そう思って、チャロにしていたみたいにぐりぐり頭を撫でてみたけれど、あれでは伝わらなかったか。

「いいと思うよ。三埜くんは、三埜くんで」

 自分でも呆れるくらい月並みな台詞だった。それでも彼は表情をぱっと明るくして、照れくさそうに笑った。ずっとにこにこしているので、こっちまで照れくさくなってしまう。

「ねえ、きょーこさん。つぎはカレーつくろうと思うんですけど、トッピングなにがいいですか?」

「トッピング?」

「とんかつでも目玉焼きでも、なんでもつくりますよ。あ、ふつうのカレーとキーマだったらどっちがいいですか? そもそもカレーでいいですか? おれ、ハンバーグとかもつくれますよ」

 三埜くんは指を折りながら得意料理を挙げていった。やっぱり全体的に茶色い。でも、どれも私の好物だ。

 この子といたら、きっといつまでも口福(こうふく)がつづくのだろう。冷蔵庫に積み重ねられたタッパーを見て、私はそう思った。

 無機質だった毎日に、色が差した。