父の転勤が決まって、別れの日が近づく中、私は無理して笑っていた。本当は寂しくてしかたがなかった。四年間はアメリカに滞在する、しかもそれが終われば父は東京の本社に移ることになるという。次いつ会えるかもわからない。ひょっとしたら今生の別れになるかもしれない。夜中に布団の中でこっそり泣いた。そんな私を裏山に連れ出してくれたのが翔だった。
「離れ離れになったって、大人になればまた会えるだろ。だから、待ち合わせの時間と場所決めておこうぜ。何年後かの今日、タイムカプセルを埋めた場所でってな」
「また、会えるかな」
 不安で泣きそうになる私を萌が励ました。
「会えるよ。お姉ちゃんはこの間成人式で小学校の友達に会ったって。ママも時々同窓会行ってるよ。昭和五十年に小学校卒業したから、昭和百年には大同窓会やろうって今から計画してるんだって」
「昭和って、おばちゃんいつの時代の人だよウケる。とっくに平成だっての」
 健が茶化して、萌が「空気を読め」とどつく。健が萌をからかうのも、萌が健に突っかかるのも好意の裏返しだと知っている。夫婦漫才のようなお決まりの光景を見るのも最後になるかと思うと名残惜しかった。
「平成でいうと三十七年だな。語呂合わせでサナ。その時、二十五歳か。ちょうどいいな」
 二人を横目に翔が素早く計算をする。
「確かに、二十歳になっても大学生って意外とお金ないもんね。東京からの新幹線代高いし」
 お姉さんが東京の大学に進学していた萌が現実的な理由で賛成の意を示した。
「じゃあ、決まり! 平成三十七年の八月三十一日、夜十時に絶対にここに集合な!」
 翔の掛け声で、私たちは円陣を組んで「集合!」と叫んだ。