美術部に入って、二ヶ月弱。その日、私は病院に来ていた。
まだ菅谷たちを描いた絵は完成していなかったが、もうすぐ出来上がりそうなその絵を今日はスマホの写真に収めてきていた。
「えー!とっても上手ね!びっくりしちゃった!」
看護師さんが私の絵の写真を嬉しそうに見てくれている。流石にキャンバスは持って来れないので、写真を撮ることにした。
「これはサッカーの試合よね?奈々花ちゃんの高校のサッカー部?」
「はい。友達がいて……」
初めて「友達」と言えた気がした。
「そうなの?どの子?」
私は絵の中の菅谷くんと草野くんを看護師さんに教えると、看護師さんは楽しそうに笑っている。
「いいわね。奈々花ちゃんにしか出来ない楽しみね」
「……?」
「だって、こんなに上手に絵を描ける人ってそんなに多くないわよ?私だって描けないもの。こういう楽しみがあることも素敵なことだわ」
看護師さんは私のスマホに映し出された絵を感心したように見ている。
「これはどんなコンテストに出すの?」
看護師さんの言葉に私は「えっと……」とすぐに言葉を返せない。なんとか「今のところ出す予定はなくて」と答えた。
「そうなの。こんなに上手なのに。私、この絵『大好き』よ」
自分の描いた絵を誰かに「大好き」と言ってもらえる人は一体どれだけいるのだろう。こんな人生の楽しみがある人はきっとそんなに多くない。
「……出してもいいと思いますか……?」
私の震えた声での質問に看護師さんは何かあると分かったようだった。そして、分かった上でニコッと笑った。
「あら、私は出すだけタダだと思うわよ?」
そうわざと軽く返してくれたのは、看護師さんの優しさだろう。私は病院からの帰り道、ずっとコンテストのことを考えていた。
ずっとコンテストが怖かった。中学の頃のようになってしまうのが怖かった。でも、気づかないうちに私はもう成長していて。そのことに気づけた今なら、もっと前に進める気がする。
家に帰った私は菅谷くんに「電話していい?」とメッセージを送ると、菅谷くんは「全然大丈夫」と返してくれた。
「菅谷くん、あの絵、コンテストに出そうと思う」
私は電話に出た菅谷くんにそう伝えた。菅谷くんは「ほんと!?」と嬉しそうに声を上げた。
「え、めっちゃいいと思う!草野も絶対喜ぶ!……あ、でも……」
「うん……?」
「コンテストに出す前に先に完成した絵を見に行ってもいい?」
「もちろんいいけど……」
「やった!早く見たかったから嬉しい」
菅谷くんが本当に私の絵を楽しみにしているのが伝わってきて、私は明日の部活のやる気が出た気がした。
「あとどれくらいで完成する?」
「本当にもう少しだと思う。あと数日」
「まじ!?めっちゃ楽しみ」
菅谷くんとの電話はいつも症状とかの話も多くて、こんな明るくて高校生らしい会話が出来ることがただただ嬉しかった。
菅谷くんとの電話を切った後に、私はベッドに座って、いつもの枕元に置かれているぬいぐるみを膝の上に乗せた。症状が出ていない時に触るぬいぐるみはいつもと違う感じがした。いつものように手を繋くと、勇気がもらえる気がする。
「うん、あともうちょっと頑張ろ」
絵の完成がもう間近に迫っていた。
まだ菅谷たちを描いた絵は完成していなかったが、もうすぐ出来上がりそうなその絵を今日はスマホの写真に収めてきていた。
「えー!とっても上手ね!びっくりしちゃった!」
看護師さんが私の絵の写真を嬉しそうに見てくれている。流石にキャンバスは持って来れないので、写真を撮ることにした。
「これはサッカーの試合よね?奈々花ちゃんの高校のサッカー部?」
「はい。友達がいて……」
初めて「友達」と言えた気がした。
「そうなの?どの子?」
私は絵の中の菅谷くんと草野くんを看護師さんに教えると、看護師さんは楽しそうに笑っている。
「いいわね。奈々花ちゃんにしか出来ない楽しみね」
「……?」
「だって、こんなに上手に絵を描ける人ってそんなに多くないわよ?私だって描けないもの。こういう楽しみがあることも素敵なことだわ」
看護師さんは私のスマホに映し出された絵を感心したように見ている。
「これはどんなコンテストに出すの?」
看護師さんの言葉に私は「えっと……」とすぐに言葉を返せない。なんとか「今のところ出す予定はなくて」と答えた。
「そうなの。こんなに上手なのに。私、この絵『大好き』よ」
自分の描いた絵を誰かに「大好き」と言ってもらえる人は一体どれだけいるのだろう。こんな人生の楽しみがある人はきっとそんなに多くない。
「……出してもいいと思いますか……?」
私の震えた声での質問に看護師さんは何かあると分かったようだった。そして、分かった上でニコッと笑った。
「あら、私は出すだけタダだと思うわよ?」
そうわざと軽く返してくれたのは、看護師さんの優しさだろう。私は病院からの帰り道、ずっとコンテストのことを考えていた。
ずっとコンテストが怖かった。中学の頃のようになってしまうのが怖かった。でも、気づかないうちに私はもう成長していて。そのことに気づけた今なら、もっと前に進める気がする。
家に帰った私は菅谷くんに「電話していい?」とメッセージを送ると、菅谷くんは「全然大丈夫」と返してくれた。
「菅谷くん、あの絵、コンテストに出そうと思う」
私は電話に出た菅谷くんにそう伝えた。菅谷くんは「ほんと!?」と嬉しそうに声を上げた。
「え、めっちゃいいと思う!草野も絶対喜ぶ!……あ、でも……」
「うん……?」
「コンテストに出す前に先に完成した絵を見に行ってもいい?」
「もちろんいいけど……」
「やった!早く見たかったから嬉しい」
菅谷くんが本当に私の絵を楽しみにしているのが伝わってきて、私は明日の部活のやる気が出た気がした。
「あとどれくらいで完成する?」
「本当にもう少しだと思う。あと数日」
「まじ!?めっちゃ楽しみ」
菅谷くんとの電話はいつも症状とかの話も多くて、こんな明るくて高校生らしい会話が出来ることがただただ嬉しかった。
菅谷くんとの電話を切った後に、私はベッドに座って、いつもの枕元に置かれているぬいぐるみを膝の上に乗せた。症状が出ていない時に触るぬいぐるみはいつもと違う感じがした。いつものように手を繋くと、勇気がもらえる気がする。
「うん、あともうちょっと頑張ろ」
絵の完成がもう間近に迫っていた。