「最近どうですか?」
病院の診察室で私は担当医にそう聞かれていた。症状が落ち着いてからは病院は二ヶ月に一度ほどのペースだったので、久しぶりな感じがする。担当医は信頼出来る人でいつも安心して話すことが出来た。
「最近はサッカー部の練習試合を見に行くことがあって……」
私はポツポツと出来事を話していく。前に来た時より話すことが多くて、何より話す内容が明るいことだったのが嬉しかった。
診察が終わって、受付の近くで待っているといつも気さくに話けてくれる看護師さんが通りかかった。
「奈々花ちゃん!診察は終わったの?」
「はい」
「最近どう?何かあった?」
看護師さんの言葉に私は担当医にも話したサッカー観戦のことを伝えた。
「あら、いいわね!私も結構サッカーを見るのが好きなの」
看護師さんはいつも通り優しくて、私はつい言葉を溢してしまった。
「……あと、絵を一枚描きました。久しぶりに……」
看護師さんは私の話し方で何かあることを察したのだろう。詳しいことは聞かずに私に微笑んだ。
「私、絵を見るのも好きなの。もし奈々花ちゃんが良かったら、今度その絵を見せてくれないかな?」
その言葉にドッと心臓が速くなったのが分かった。
「もちろん嫌だったら無理しなくていいから」
その言葉に私は何とか笑顔で頷いた。絵を見せたくない訳じゃない。久しぶりに言われた言葉に戸惑ってしまっただけ。それでも、心臓の音はどんどん速くなっていく。
看護師さんと別れたあとに会計を済ませて病院を出ようとすると、エントランスに大きな絵が飾ってある。いつも病院に飾ってあって見慣れているはずなのに、何故か立ち止まってつい見てしまう。
知らない画家の絵。それでも、見ているだけで楽しくて。
本当はずっと絵が描きたかった。一枚だけじゃなくて、もっと沢山。
それでも誰にも止められていないのに、許されていない感じはなくならなくて。
「川崎さん、俺ら二人とも『絶対大丈夫』だよ」
絵を見ながら菅谷くんのその言葉が頭をよぎった時、「前に進みたい」という気持ちが大きくなった気がした。許されていない感じがしていた気持ちを菅谷くんのその言葉は取り払ってくれる。
「川崎さん、大丈夫だよ。寂しくない」
菅谷くんの言葉を思い出して、もう一度自分の心に言い聞かせる。
「寂しくないよ。大丈夫。だから……そろそろ勇気を出してよ」
そして、美術館に行った時の美坂さんの言葉も頭を流れた。
「高校は美術部入らないの?」
「川崎さんって絵が本当に好きなんだね」
好きだよ。絵が大好き。ただそれだけの気持ちで中学校で美術部に入った。
その時、ずっと思っていた自分の気持ちに素直になれる気がした。気づかないようにしていた気持ち。勇気が萎んでしまう前に私はスマホを取り出して、美坂さんとのトークルームを開く。
「美坂さん、私、美術部に入ろうと思う」
菅谷くんがサッカーをしている時の楽しそうな顔に憧れるなら、私だって笑顔でいるために好きなことをする努力を始めたかった。
私はその日、大きな絵画の前で小さな勇気を出した。
病院の診察室で私は担当医にそう聞かれていた。症状が落ち着いてからは病院は二ヶ月に一度ほどのペースだったので、久しぶりな感じがする。担当医は信頼出来る人でいつも安心して話すことが出来た。
「最近はサッカー部の練習試合を見に行くことがあって……」
私はポツポツと出来事を話していく。前に来た時より話すことが多くて、何より話す内容が明るいことだったのが嬉しかった。
診察が終わって、受付の近くで待っているといつも気さくに話けてくれる看護師さんが通りかかった。
「奈々花ちゃん!診察は終わったの?」
「はい」
「最近どう?何かあった?」
看護師さんの言葉に私は担当医にも話したサッカー観戦のことを伝えた。
「あら、いいわね!私も結構サッカーを見るのが好きなの」
看護師さんはいつも通り優しくて、私はつい言葉を溢してしまった。
「……あと、絵を一枚描きました。久しぶりに……」
看護師さんは私の話し方で何かあることを察したのだろう。詳しいことは聞かずに私に微笑んだ。
「私、絵を見るのも好きなの。もし奈々花ちゃんが良かったら、今度その絵を見せてくれないかな?」
その言葉にドッと心臓が速くなったのが分かった。
「もちろん嫌だったら無理しなくていいから」
その言葉に私は何とか笑顔で頷いた。絵を見せたくない訳じゃない。久しぶりに言われた言葉に戸惑ってしまっただけ。それでも、心臓の音はどんどん速くなっていく。
看護師さんと別れたあとに会計を済ませて病院を出ようとすると、エントランスに大きな絵が飾ってある。いつも病院に飾ってあって見慣れているはずなのに、何故か立ち止まってつい見てしまう。
知らない画家の絵。それでも、見ているだけで楽しくて。
本当はずっと絵が描きたかった。一枚だけじゃなくて、もっと沢山。
それでも誰にも止められていないのに、許されていない感じはなくならなくて。
「川崎さん、俺ら二人とも『絶対大丈夫』だよ」
絵を見ながら菅谷くんのその言葉が頭をよぎった時、「前に進みたい」という気持ちが大きくなった気がした。許されていない感じがしていた気持ちを菅谷くんのその言葉は取り払ってくれる。
「川崎さん、大丈夫だよ。寂しくない」
菅谷くんの言葉を思い出して、もう一度自分の心に言い聞かせる。
「寂しくないよ。大丈夫。だから……そろそろ勇気を出してよ」
そして、美術館に行った時の美坂さんの言葉も頭を流れた。
「高校は美術部入らないの?」
「川崎さんって絵が本当に好きなんだね」
好きだよ。絵が大好き。ただそれだけの気持ちで中学校で美術部に入った。
その時、ずっと思っていた自分の気持ちに素直になれる気がした。気づかないようにしていた気持ち。勇気が萎んでしまう前に私はスマホを取り出して、美坂さんとのトークルームを開く。
「美坂さん、私、美術部に入ろうと思う」
菅谷くんがサッカーをしている時の楽しそうな顔に憧れるなら、私だって笑顔でいるために好きなことをする努力を始めたかった。
私はその日、大きな絵画の前で小さな勇気を出した。