彼女との出会いは、八年前だった。

 俺は町のはずれの広場で一人硝子玉を並べて見比べていた。

「何、見てるの?」
「わっ、なんだよお前!」

 急に後ろから声をかけられたことで驚いた俺は、慌てて見ていたものを隠そうとするが手遅れだった。
 彼女は興味深そうに俺の目の前を無遠慮に覗き込み、そこに並ぶ硝子玉たちを見つけてしまった。

「わー、きれいねー」
「え? そうかっ?」

 ここに並べた硝子玉は、俺が練習で作らせてもらったものだ。
 作ったものをほめられて、思わず声が弾む。

「うん。ねえ、さわってもいい?」
「いいよ! あ、でもなくしたりするなよ!」
「もちろんよ!」

 彼女は俺の目の前で横座りになると、硝子玉を手に取り始める。

「いいなー、この泡がいっぱいあるのが好きよ」
「それか? じいさんは泡が少ない方が良い、これは売り物にできない、って言うんだけどさ」
「おうちは硝子工房なの?」
「ああ」
「もしかして、これはあなたが作ったの?」
「そうだよ」
「わああ……! すごいわね!」

 彼女があまりにもキラキラした眼差しで見つめてくるものだから、俺は自分の硝子玉を誇らしく感じて、調子に乗ってふんぞりかえった。

「じゃあ、今度は他のも見せてやるよ!」
「嬉しいわ! 私の名前はね、リースよ」

 名乗られてからようやく見たことのない顔だと気付いた。

 そして俺はようやくここで、好意的な反応を見せてくれたリースに興味を持つ。

「リース? 他の町から来たのか?」
「そうよ、王都から来たの。しばらくはここに泊まるのよ」
「へえ、王都から。あ、俺はホロウ」
「ねえ、ホロウ。明日も見せてくれる?」
「うちに来れば? 一度に全部は見せられないからさ」
「ちょっとずつ見るのがいいの。ワクワクがずっと続く感じがするでしょう?」
「そうかー?」
「私はそうよ! ねえ、まだ見ていていい?」
「いいよ!」
「えへへ。じゃあね、お礼をあげるね。手を出して?」
「うん、なんだ?」

 ポシェットから硝子瓶を取り出したリース。
 瓶には色んな色の、硝子玉みたいな球体がいくつか入っていた。

「んっ? 硝子玉?」
「見てからのお楽しみ。さあ、手を出して?」
「こうか?」
「そうそう! えーっと」

 彼女が硝子瓶と体を一緒に斜めに倒して、俺の手に玉を転がそうとする。

――コロコロコロン。

 硝子瓶の中を軽やかに転がる玉の音は、硝子玉同士が鳴らす音とは違って聞こえた。

「ほんとだ。音が違うな」
「これはキャンディ。なめるお菓子よ。口に入れてとかして食べるの」

 彼女は自身の手にも転がしたキャンディを見本のように口に入れて、笑顔で味わい始めた。

「かまない方が味が長く楽しめておいしいのよ」
「ふーん……わ、あっま!」
「ふふ。でしょ? 私のおやつだけど、分けてあげるね」
「えっ、良かったのか?」
「もちろんよ。代わりにこの硝子玉を眺めさせて!」
「それくらいどんどん見ていけって!」
「ありがとう!」

 彼女は口にキャンディを頬張ったまま、硝子玉を手に空に翳した。

「本当にきれい……」

 どこか悲しそうな瞳で硝子玉を見るリース。
 どうしてそんな顔をするんだろうと、この頃はただ不思議に思うだけだった。