そう考えせざる得なかった。
　今日、あの夢を見たせいかもしれない。
　あの頃の欠片も幻だったかのように、なにも残っていないのだ。思っていることを実際に言ってしまうと、きっとまたすぐに、もっと怒鳴る。だから言っても無駄だ。きっと、声に出して言う日は一生こない。思ったことも、感じたことも、心の中でずっと溜め続ける。
　いつものように反射的に言葉を返すと、突然お父さんが、はぁ～と深い溜め息を吐いた。その声を聞いて思わず肩をびくりと震わす。
　飲んでいたコーヒーを全て飲み干してから「朝から気分が悪くなって最悪だ」と言って立ち上がりリビングから出ていった。
　私がいるこの部屋でさっきまでのが嘘だったかのように静かになると、急に玄関のドアが大きな音を立てて閉じる音がした。
　その音でも、体が反射的に震える。
　お父さんが家からいなくなっても、お母さんと私は、静かなまま動くことがない。

　凍りついてしまった空気を壊したのはお母さんのため息だった。
　大きなため息を吐いた後、作業を再開し始める。
「紡希、しっかりしてちょうだい」
「......本当に、ごめんなさい」
　反射的に謝った。
　すると、お母さんは呆れた顔をする。
　
　心の無い操り人形になることができたら、怒られることも、傷つくこともないのかな。
　そんなことを思いながら、ゆっくりと重い足を引きずるようにして歩き出し自分の朝食が置いてある席に座って食べ始める。
　結局、家族に起こされたときと同じくらいの時間帯になってしまった。