ほとんど静かな空間。
手や物を動かす音だけが聞こえてきた。
父、母が......わたしの家族がひとつの部屋にいる。
一見、この光景が穏やかそうに見えるかもしれない。
でも、ここに穏やかな場所なんて存在しなかった。
だって、現実は気まずい雰囲気で充満しているから。
今ではそれが当たり前のことだった。
お父さんは仕事が忙しいようで、機嫌が悪い日が多く、仕事でのストレスを私たちにぶつけてくる。そして、お母さんもお父さんの目が届かないところでは私をストレスを発散するための人形のようにして、ぶつけていく。
これが幻想だったら良かったのに。
このことを周りの近所の人たちは誰も知らない。良い家族だとそう思っている人の方が多いだろう。だって外ではそう思われるように演じているのだから。
どうか今日の朝はこのまま静かに過ぎてほしい。
そう願いながらゆっくりと、顔をうつむかせながらリビングの中へそっと入って行った。
「紡希、今日は早く起きれたのね」
入ってすぐに、お母さんに声を掛けられて反射的に少し肩を震わせながら、今日は機嫌がいいのかと様子を伺う。
けど、お父さんの顔をちらちらとたまに確認をしているから、いま浮かべているその笑顔は偽りで貼り付けているだけだとそう思った。
お父さんは、お母さんの声を聞いて私がいることに気がついて、顔を上げた。
「紡希、今日は早く起きたれたのか。起きれるのなら、毎日しっかり早く起きたらどうなんだ。お前はただでさえ、頭が悪くてレベルが低い高校に通っているんだ。少しくらいはできるところがあるって見せろよ」
私の顔を見た瞬間にすぐに怒鳴り声を上げた。
空気が一気に張り詰める。私はその場で立ち止まった。
お母さんは、お父さんの怒りが自分に向かないように動きを止めて黙り込む。
「ごっ、ごめんなさい」
しっかり声を出そうとしたのに出た声が聞き取れるのか微妙な声で震えが混じっていた。
「全然、聞こえないぞ。何を言っているんだ」
ため息を吐きながらそう言った。
―――やっぱり、こうなってしまった。......死にたい。......消えたい。
無性にそう願ってしまう。
「ごめんなさい」
今度は、しっかり声が出た。
「はっ、いつもこれくらいしっかり声出せよ」
嫌味ったらしく笑い声を出しながら、コーヒーを飲む。
この場を逃げたい。逃げ出したい。
人を挑発するようなこの声を聞きたくない。
でも、できないのだ。だって、そんなことをした後のことを考えると恐ろしくてやることができない。
心の中にいるもうひとりの私は現実から背くように、体を丸めてうつむく。暗闇のなかで一人ぼっち。
気づいたときには、どうしたら泣くことができるのか分からなくなってしまった私の代わりに、止むことを知らない涙を流し続ける。
「五月にあった中間テストの結果もあまり良くないんだから、今月にある期末テストは良い成績を出せよ」
嫌なところをついてきて何も言い返すことができない。
―――あの頃の優しかった、一緒に居てくれた、笑ってくれた、手を繋いでくれたことの全ては幻だったの?
無意識に心の中で、目の前にいる家族にしっかりと伝えられたとしても答えてくれるはずもない問いを問いかけてしまう。なんで変わってしまったのだろう。
手や物を動かす音だけが聞こえてきた。
父、母が......わたしの家族がひとつの部屋にいる。
一見、この光景が穏やかそうに見えるかもしれない。
でも、ここに穏やかな場所なんて存在しなかった。
だって、現実は気まずい雰囲気で充満しているから。
今ではそれが当たり前のことだった。
お父さんは仕事が忙しいようで、機嫌が悪い日が多く、仕事でのストレスを私たちにぶつけてくる。そして、お母さんもお父さんの目が届かないところでは私をストレスを発散するための人形のようにして、ぶつけていく。
これが幻想だったら良かったのに。
このことを周りの近所の人たちは誰も知らない。良い家族だとそう思っている人の方が多いだろう。だって外ではそう思われるように演じているのだから。
どうか今日の朝はこのまま静かに過ぎてほしい。
そう願いながらゆっくりと、顔をうつむかせながらリビングの中へそっと入って行った。
「紡希、今日は早く起きれたのね」
入ってすぐに、お母さんに声を掛けられて反射的に少し肩を震わせながら、今日は機嫌がいいのかと様子を伺う。
けど、お父さんの顔をちらちらとたまに確認をしているから、いま浮かべているその笑顔は偽りで貼り付けているだけだとそう思った。
お父さんは、お母さんの声を聞いて私がいることに気がついて、顔を上げた。
「紡希、今日は早く起きたれたのか。起きれるのなら、毎日しっかり早く起きたらどうなんだ。お前はただでさえ、頭が悪くてレベルが低い高校に通っているんだ。少しくらいはできるところがあるって見せろよ」
私の顔を見た瞬間にすぐに怒鳴り声を上げた。
空気が一気に張り詰める。私はその場で立ち止まった。
お母さんは、お父さんの怒りが自分に向かないように動きを止めて黙り込む。
「ごっ、ごめんなさい」
しっかり声を出そうとしたのに出た声が聞き取れるのか微妙な声で震えが混じっていた。
「全然、聞こえないぞ。何を言っているんだ」
ため息を吐きながらそう言った。
―――やっぱり、こうなってしまった。......死にたい。......消えたい。
無性にそう願ってしまう。
「ごめんなさい」
今度は、しっかり声が出た。
「はっ、いつもこれくらいしっかり声出せよ」
嫌味ったらしく笑い声を出しながら、コーヒーを飲む。
この場を逃げたい。逃げ出したい。
人を挑発するようなこの声を聞きたくない。
でも、できないのだ。だって、そんなことをした後のことを考えると恐ろしくてやることができない。
心の中にいるもうひとりの私は現実から背くように、体を丸めてうつむく。暗闇のなかで一人ぼっち。
気づいたときには、どうしたら泣くことができるのか分からなくなってしまった私の代わりに、止むことを知らない涙を流し続ける。
「五月にあった中間テストの結果もあまり良くないんだから、今月にある期末テストは良い成績を出せよ」
嫌なところをついてきて何も言い返すことができない。
―――あの頃の優しかった、一緒に居てくれた、笑ってくれた、手を繋いでくれたことの全ては幻だったの?
無意識に心の中で、目の前にいる家族にしっかりと伝えられたとしても答えてくれるはずもない問いを問いかけてしまう。なんで変わってしまったのだろう。