―――私は、いなくなったって良い存在。


 窓のカーテンを開けた後、家族が私を起こしに来てなにかを言われたり、怒られたりするのが嫌で急いで早く支度を済ませる。

 でも、今日は早く起きない方が、まだ......よかった。

 その後、自分の部屋から廊下へと繋がるドアに手を掛ける。
 ゆっくりとドアを開けて一歩廊下へ踏み出そうとしたとき、足が床に張り付いたように動かなかった。

 家族に会いたくない。

 顔を、声を、見たり聞いたりしたくない。
 可能であれば、ずっとひとりでいたい。

―――嫌、いや、イヤ。

 
 心からの拒絶反応が滲み出てしまう。
 それでも、それでも、そんなことなんて不可能で簡単に叶うことではないのだから。

―――しょうがない。仕方がないことだから、諦めよう。

 そう思ってしまう自分がいて嫌気が差す。

 でも、こう思って耐えることしか知らなくて結局流されるように、身を寄せることしかできない。

 心から溢れてしまう気持ちを、深い、深い、海の底へと沈めるように心を押し殺す。
 自然と深い溜め息が出て、その後は落ち着かせるようにゆっくりと深呼吸をした。

 でも、胸のあたりに何か重い感覚が消えない。
 いつからだろうをそれを感じるようになってしまったのは。
 重りのような。モヤッとした何か。

 これが一体何なのか、私にはわからない。
 でも良くないもののような、そんな予感だけがする。

 ずっと、立ち止まって居ても時間が過ぎてしまうだけ。

 だから無理矢理にでも、一歩ずつ踏み出した。

 重い足を引きずりながら。

 ゆっくりと音を立てないように自分の部屋から、二階から一階へと降りて、気づかれないように足音を殺すように静かにそっとリビングへと向かう。
 リビングに近づくに連れだんだんと話し声が聞こえてきた。

 今日のお父さんは機嫌が良いようで、新聞を開いていく音やコーヒーの香りが廊下まで漂っていた。
 大丈夫、大丈夫、きっと怒られたりされない。心の中でそう唱えながら深呼吸をした。
 そうでもしないと、お母さんやお父さんたちの姿を見ることが、あの空間に入ることができない。
 
 ゆっくりと息を吐いて、そっとリビングへと入口の側でこっそりと様子を伺う。
 お父さんは新聞を読みながらコーヒーを飲んでいて、お母さんはキッチンで手を動かしながら作業していた。