その瞬間、目が覚めた。
　目を閉じていても瞼(まぶた)を通り抜けてくる強い光に意識が急に覚醒した。
　見慣れた天井が一瞬ぼやけて見えて、私が、自分自身が生きていることに少し落胆する。
　脳裏には、最後に見えた君が私に四つ葉のクローバーを差し出すように向けながら照れくさそうにだけど満面の微笑みを浮かべる姿がくっきりと残っていた。
　思わず腕で視界を隠す。
　なんて幼き日々の夢を見てしまったのだろう。
　あの日にどんな約束を交わしたのか、何故かそこだけが思い出せない。
　ずっと覚えていたはずなのに、いつの間にか忘れてしまっていた。
　覚えていなければいけないことだったのに。
　優しかった家族も、ずっと一緒に遊んだりしてくれていた幼馴染の君も、いつの間にか嘘のように消え、離れ離れになってしまっていた。
　もう無邪気で、純粋だったあの頃に戻ることなどできない。
　過去や未来に行き来することが可能な魔法なんて存在しないのだから。
　存在するのは、変わらないようで気づいたときには古きものは跡形も残らず消え、変わっていく現実だけ。
　希望なんて等に消えていて、逃げることなんてできない。
　視界を遮(さえぎ)っていた腕をゆっくりとおろす。

「......起き、ない、と」

　最初に出た声が呆れてしまうほどの途切れ途切れの今にも消えてしまいそうな弱々しい声。
　そんな自分も嫌いになる。
　泣き方や笑い方もいつの間にか分からなくなっていた。
　嫌な毎日が今日も続く。
　ゆっくりと息を吐いてのろのろとベットから起き上がる。
　そして、ベットから抜け出して、カーテンをそっと開けた。
　すると、そこには幼き頃は好きだった、今では大嫌いな晴れた空が広がっていた。