桜は見事なまでに空を覆っている。彼女に見惚れながらも、木の下まで急ぎ足で行く。 
 散った一片の花弁の上に指輪が置いてあった。結婚指輪。そんな事すぐに分かった。 

 煌めくダイヤモンドを左手の薬指にはめる。シンデレラのガラスの靴同然、ピッタリとはまった。桜と青空の背景に手を翳してみる。まるで真綿に包まれている様な気分だ。

 体の棘は抜けないけれど、それ以上の麻酔を貰った。これがあれば大丈夫。そう思うと同時に、私はダイヤモンドの涙を流した。

 満開の桜の下、薄い月を見上げる。それからどこかに居るはずの彼へ声をかけた。


「行ってらっしゃい。また会おうね」


 そうして私は月をねだる。




 cry for the moon end🌕