まあ、どうこうなるわけでもなく私は酔っ払っているわけで。それは三瀬くんもそして私も理解している。
私は帰ってきて気が抜けて、お茶どころではなくなってしまった。
視界がぼやけて頭がぼうっとする。


「星子さん、水もってきましたよ」


完全に介抱させるために彼を呼んでしまったようなものじゃないか私。本当何やってんの。

そう思いながらも、ペットボトルのキャップを開けて私に差し出した三瀬くんを見つめる。


「飲めますか?はやく水飲んで酔いを冷ました方がいいです」


「…うん」


「じゃあ早く受け取って」


急かされて私は彼から差し出されたそれを受け取る。


「ちゃんと二日酔いの薬とかもってますか?出しておきますよ」


「…うん」


「どこにあります?」


「うーんとね、あそこらへん、かな」


頭が働かない中、指をさせば三瀬くんが「どこだよ」と小さく呟いて私の部屋を探り始める。
そんな姿をぽけっと眺めながら私はお水を飲もうとするが力がうまく入らず口から水が溢れでて伝っていく。さすがに恥ずかしくなって三瀬くんが戻ってくる前に手のひらで軽く拭う。

あー、もう、空回りばかりだ。お酒飲むんじゃなかった。

後悔ばかりが募っていくなか、三瀬くんが戻ってきた。


「薬、ここに置いておきますね」


テーブルの上に置かれた薬。
小さく頷けば、三瀬くんが私の横に座った。ソファが少しきしむ。

「っ、ごめんね、ありがとう」

「水、全然飲んでない」

「うん、ごめん」

「しょうがないですね」


私の手から水を奪って、三瀬くんは自らの口に含んだ。
そんな姿を私は霞む視界のなか見つめる。

何をされるか、分かったような気がした。

彼の綺麗な顔が近づいて、私は思わず身を後ろにもっていけば逃がさないように彼が私の後頭部に手を回した。


「っん」


口の中に水が入り込んでくる。
私が酔いを利用しているみたいだと自己嫌悪が根底にあって、そのうえに浮ついた感情と恥ずかしさとが募っていきもうどうにかなりそうだった。

ゆっくりと唇が離れる。


「…こぼしたんですか、服も濡れてる」


そう言って、私のシャツのボタンに触れた三瀬くん。
や、やばいやばいやばい。
これ以上はキャパオーバーな気がする。


「あ、あの、三瀬くん、えっと」


「自分で脱ぎますか?」


それはいったいどういう意味でしょうか!!
服濡れてるからはやく着替えた方がいいよという意味だったらものすごく恥ずかしいけど、勘違いじゃなければ、勘違いじゃなければ今私たちは一線を越えようとしているのではないだろうか。


「じ、じぶんで、着替えます」


カタコトな日本語でそう言えば、三瀬くんはクスリと笑った。


「分かりました。着替えとってきましょうか?」


「だ、大丈夫!」


勢いよくと立ち上がって自らを手で仰ぎながら必死に熱を冷まそうとする。
甘い熱に耐えられなくなったのは私だった。

そして三瀬くんはやっぱり分からない。

着替えてこようと一歩踏み出した私の手を三瀬くんが掴んだ。


「星子さん」


「っ、は、はい」


「お茶はまた今度、ですね」


甘く、ためすような口調でそう言い放った三瀬くんに私は何も理解できないふりをして「そ、そうだね!」と誤魔化すように笑った。