マヨネーズでうんこを作るのが得意だ。


お皿の端に綺麗に巻かれた黄色をみて私は微笑む。

マヨネーズで綺麗なうんこが出来たからといって何か良いことがあるのかと言われたらまあそんなことはないのだけれど。
茹でたアスパラガスに潰されていく黄色のうんこを眺めながら私はため息をついた。

社会人6年目。特に変わらない毎日が続いている。

テレビをつけると真面目な顔をして原稿を読んでいるアナウンサーが映っていた。

『おはようございます。朝のニュースです。今、問題になっている薬物のーーーー』

憂鬱な朝。少し渋めのアナウンサーの声は脳内に入る余地はなく、

アスパラガスの味というより、マヨネーズの味が優っているそれを咀嚼して飲み込んだあと、テレビの端の方に表示されている時間を見た。


8時40分

家から会社まで走って約10分。

朝は弱いため、会社から徒歩圏内の家に引っ越したのが2ヶ月前のこと。
おかげさまで始業時間の20分前にマヨネーズでくるりとうんこを作り上げる始末だ。

汚れたお皿は洗う時間がなく、シンクに置き私は駆け足で部屋を出た。

最近はパンプスでは走りにくいため、少しお高めのスニーカーを買った。

おっさん上司から「女はパンプスで来いよ。女性らしくしたらどうだ」などと時代錯誤も甚だしい小言を並べられたが下手な愛想笑いを浮かべてパンプスは棚の奥底に封印してやった。2度とはくもんか。



「おはようございます。
今日もギリギリですね、星子さん」


荒々しくデスクの上にカバンをのせて、息を整えている私の隣からそんな声がする。
1ヶ月前にやってきた後輩くんだ。

その端正な顔立ち、モデル顔負けのスタイルの良さから会社では瞬く間に話題となった。

だが、この後輩はそういうのに慣れているのか受け流すのがうまかった。

ご飯に誘われれば行きはするが、女が意気消沈して帰ってくる。それの繰り返し。

誰がこの後輩くんを口説くのか見ものだったが、こんなルックスで彼女がいないわけがないとなんとなく悟った者たちが落ち着きを取り戻したこの頃。

彼の教育係となってしまった私への僻みもおさまってきていた。



「おはよう、三瀬くん」


椅子に座り、彼にそう言えばニコリと爽やかな笑顔をこちらに向ける。まっぶし。


「昨日言われた資料できたので確認お願いします」


「相変わらずはやいね、もう教えることないんじゃないの」


「そんなことないですよ。まだまだ星子さんに教わりたいです」


なーんだこいつ。超かわいいんだが。
とその黒髪をわしゃわしゃとこねくりまわしたい衝動にかられるがぐっと抑える。
セクハラだと訴えられたら平凡な生活が終わってしまうからだ。

1日で完璧に作り上げられた資料に目を通して私は口角をあげる。


「完璧だよ、三瀬くん」


「ありがとうございます。あとやることありますか?」


「じゃあ、ひとまず営業用の資料一緒に作ろうか」


「はい」


完璧超人とはこういう人のことを言うのだろうか。
ルックスも良くて、愛想も良くて、おまけに謙虚。
こういう人間には私はなれないのだろうと、少しの劣等感こそある。

私のデスクの方に椅子ごと寄って距離を縮めた三瀬くんがメモを準備しながら私のパソコンを覗き込む。