僕は、叡として今を生きている。瑠璃には、叡というのではなく紘一と言おう。
親の方針で、高校1年になったら自由に外出していいと言われた。



あっという間に、6年の月日が経った。紘一が亡くなり20年。彼女は、どう思うだろうか。
高1になり、与野紘一として過ごしてきたN市にやってきた。
記憶を頼りに、まず紘一の家へ向かった。
住所は変わっておらず、少しためらったがチャイムを鳴らした。
「はい、どちら様でしょうか」
「与野紘一、の知り合いです」
とっさの嘘に舌を噛んだ。
しばらくして、母さんが現れた。
久しぶりに見る母さんは、白髪が混じり、シミもあったが面影は変わっていない。
「名前は?」
「叡、です」
「とりあえず、上がって」
久しぶりに入った我が家は、何も変わっていなかった。ただ1つを除いて。仏壇というもの以外は。
紘一の遺影だった。
「それで?」
席についていると、飲み物が運ばれてきた。琥珀色の紅茶が懐かしかった。
「母さん」
直球に、言ってしまった。母さんは、ビクッと肩を震わせた。
「紘一?いや、でも、え?あなた、な、何者?」
やっぱり、不審すぎるか。
「与野叡。いえ、この場合は…
 与野紘一、母さん」
「あなた、なんのつもり?紘一は、紘一は…
 死んだのよ!?」
「そう、だよ、母さん。僕は、与野紘一の生まれ変わりの与野叡なんだよ」
母さんは、わかってくれるはず。そんな浅はかな考えは消された。
「生まれ変わり?あなたが紘一で生まれ変わって与野叡になった?馬鹿な真似はやめて頂戴」
信じられないか。じゃあ、これなら…、
「与野紘一。20××年、5月30日生まれ。AB型。亡くなった年齢は、高2。彼女がおり名前は小野山瑠璃。今生きていれば、36歳。どうですか?」
「そんなの、調べたら…」
まだ、認めないらしい。懲りない。
「じゃあ…」
「もう、やめて!生まれ変わり?僕は、紘一?あなた、頭いかれているんじゃないの!?私の息子の紘一は、紘一は!」


母は、泣き崩れた。ごめんなさい、ポツリと呟いた。



「ごめん、母さん。死んじゃって。親孝行、出来なかった…」


「あ、ぁぁ。紘一…。叡くん、君が紘一にしかもう見えなくなったわ。本当に、紘一なのね?」
「あぁ。母さん。母さんっ!」
どうやら信じてくれたようだ。母さんの目尻には涙が溜まってどんどん頬をつたって落ちていった。そんな母さんを僕は、ひたすら抱きしめた。