暇なとき用に持っていた本を片手に座って話をしている僕の顔を瑠璃は覗き込んでいた。
「あのときのこと、ずっと憶えている」
「そっか、ありがとう」
瑠璃はそう応えた。
「まさか、幼なじみが昔でも友達だったなんて」
「後悔しているの?」
「後悔なんかしていないさ」
「そう」


しばらく、海をみた。
黄昏時の夕日は、あまりにもきれいであっという間に消えそうな寂しい色。
「紘一、帰らないの?」
「実は、僕一人暮らししてて此処に住んでるから平気なんだ」
「そうなの?」
「うん」
僕は、親と話し合って一人暮らしをし始めた。母親は、反対していた。父親は、むしろ賛成だった。
母親は、会社経営をしていて僕に継がせる気だったのか最後の最後まで反対していたが僕の熱意にとうとう折れ渋々受け入れてくれた。
「うちまで、来ない?」
瑠璃が誘ってきて、僕が頷くと破顔した。



瑠璃の家は、マンションの10階だった。
おしゃれな部屋で、中に入ると最初に出逢ったときに抱きかかえていた猫がいた。
「この子の名前は、瑠衣香(るいか)って名前なの」
「いい名前だね」
「うん、ご飯用意するから瑠衣香と遊んで貰ってても良い?」
「もちろん」
「ありがとう」
瑠璃は、テキパキと料理をしている間僕と瑠衣香は猫グッズで遊んでいた。
喉を触ると、ゴロゴロ動かした。気持ち良いのだろう。
「瑠衣香との、出会いは?」
「その子、捨て猫で私が拾ったの。急いで病院に行くと生まれて間もないって言われた。で、そのまま引き取った」
優しい瑠璃は、たしかに目の前の命を捨てることなど出来ない。やっぱり瑠璃は、すごいと思った。


「お待たせしましたー」
用意されたのは、紘一の頃大好きだった瑠璃の特製オムライスだった。
特製オムライスは、20年経っても味が変わっていなくて懐かしさに涙を流した。それを見た瑠璃がハンカチを持ってきた。
そのハンカチは、"20年前僕が誕生日プレゼントであげたハンカチ"だった。
瑠璃は、ずっと大事にしてくれていたのだろう。
「紘一、見て」
そう言って差し出されたのは、僕が死ぬ直前瑠璃にあげた"半月のネックレス"だった。
こっちは、紘一が持っててともう一個の半月のネックレスだった。
それ以外にも部屋の至る所に僕とのツーショットが飾られていて、瑠璃から僕に対する愛情が伝わってきた。


瑠璃達と、出逢ってから涙脆くなってしまった。人の温かさがこんなにも温かいものだと思った。
瑠璃は、僕を抱きしめてあやした。瑠璃の体温を感じて泣いて泣きまくった。