「はぁっ、はあっ」
ダッシュで、海に着くと綺麗な歌声が聞こえた。
「quickly find me、quickly find me…」
私を、早く見つけて?もしかして!
歌声の近くにいると、ある"女性"がいた。
何で、気づかなかったのだろう。こんなにも、近くにいて2回目も逢っていたのに。それに、僕が気付かなかった。
歌声の持ち主は、最初、海で猫を抱いた人、そして2回目は、映画館で僕の隣に座った耳の不自由な人。
そこから、僕の思考はパズルのピースのように繋がった。

彼女は、"瑠璃"だったんだ。36歳と、なった瑠璃は、髪が長くなって背も少しばかり高くなっていた。
でも、混乱するものがあった。瑠璃は、20年前は、健常者だった。なのに、今更耳が、不自由に?なぜ?
そういえば、20年前のプラネタリウムに行って瑠璃の名前を呼んだとき中々反応しなかった。もしかして、あの時からもう耳が、不自由だったのではないのだろうか。
瑠璃にかける言葉を探していると、大人になった瑠璃は僕に気が付いた。そして、温かい懐かしい微笑みを浮かべた。
「瑠璃!」
そう、言ったけれどやっぱり聴こえないようだった。
急いで、スマホを取り出しメモ帳を開いた。
そこに、「瑠璃、久しぶり」と打ち込み瑠璃に見せた。瑠璃は、満足そうな顔と悲しい顔をしてこちらに歩み寄ってきた。
「紘一、なんだよね?逢えて、良かった。すっかり、私はおばさんになってしまったわね、」
どうやら、僕と瑠璃の会話は文面で、瑠璃が喋る時はちゃんと声を使いたいらしい。
「そう、だよ。瑠璃。おばさんなんてとんでもない。ずっと僕を待ってだんだよね、海でもプラネタリウムでも、そして小説上でも」
瑠璃をみると、コクリと頷いた。
そう、瑠璃はこんなところにもヒントを与えてくれた。映画館で、僕たちが観たのは瑠璃が紘海として書いた作品だった。
そして、あの映画のように僕たちがまた出逢える日を願って描いた作品だと瑠璃は教えてくれた。
「あのね、私耳聴こえないの」
「うん、知ってる」
「なら、何で私に逢いに来たの?」
「瑠璃に、逢いたかったから」
そう打ち込み、見せると20年間溜まっていた涙が洪水のように流れていった。
我慢を、していたのだろう。ずっと、悲しみに染まりながら自分なりに生きていたのかも知れない。
「ありがとう、紘一。ありがとうー」
「瑠璃、僕は生まれ変わってまた瑠璃に逢えることが出来た。ありがとう」
そうすると、瑠璃は僕が好きだった笑顔を浮かべ「ありがとう」そう懐かしい声で言った。
今度は、僕が泣く番になった。
僕たちは、誰もいない海でそっと抱きしめあった。
昔、紘一の前にも僕は前前世の記憶もあった。
与野叡の前の与野紘一の前。
佐野直弥(さのなおや)
実は、瑠璃も前世の記憶が薄っすらとあったらしい。


あれは、45年も前の話だ。