「母さん、瑠璃は?」
「分から、ないわ…。あなたが亡くなってから塞ぎ込んでしまったの。瑠奈さんなら分かるかも知れないわ…。瑠璃ちゃん、ずっと生まれ変わったあなたに会いたがっていた。とっても…。お葬式には来てくれたけれど、その後は瑠奈さんにしか分からないと思うわ」
そう言って、母さんはにこりと笑った。でも、悲しそうな目は隠しきれていない。
「ありがとう、母さん。僕、行ってくる」
「いってらっしゃい」
20年前のように母さんは、僕を送り出してくれた。その懐かしさに、胸がギュッと痛んだ。






瑠璃の家は、変わっていなかった。
瑠奈さんは、丁度庭のお手入れをしていた。
瑠奈さんは、すぐに僕に気が付いた。
「どちら様?」
20年前と変わらない声がして、ホッと胸を撫で下ろした。
「与野です」
「与野?実はね、私の娘の彼氏の名字も与野だったのよ。
 20年前に、亡くなってしまったけれどね…」
悲しそうに、ポツリポツリ話してくれた。
僕は、瑠奈さんにも愛されていたんだ。生まれ変わって知った新事実。
「あの、小野山瑠奈さんですよね?」
「えぇ、あなた紘一くんにそっくりね〜」
お、これは話が早いかもしれない。
「あの、突然ですが…」
「なぁに?」
「小野山瑠璃さんは、今どこにいるでしょうか…?」
「なぜ、あなたが娘の名前を?」
少し、怪しい顔を浮かべた。
「瑠奈さん。僕です。与野、紘一です…」
「は?」
呆気にとられたみたいだ。まぁ、無理もないだろう。突然、死んだ人間が目の前にいるのだから…。
「紘、一くん?あなたが?」
フッと微笑んだ。
え、と微かな疑問を覚えた。
「紘一くんのあなたは生まれ変わった姿なのね?会えて、本当に良かった…」
「はい、今は与野叡と言います…。瑠璃は?」
「ごめんなさい…。それだけは言えないわ…」
「なぜ?」
「それは…」
そう言って、瑠奈さんは黙った。でも、すぐに口を開いた。
「ただ、1つ言えることがあるわ」
「なんですか?」
深呼吸をしてから、瑠奈さんは言った。「瑠璃と極力会わないでほしいの…」と。それだけを残して、瑠奈さんは家へ入っていってしまった。
瑠璃と、極力会わないでほしいの?
なんで、その必要が?
途端に、紘一の頃の記憶が流れ込んできた。
それを見終わったあと、僕は気が付いた。
彼女には、秘密があったのだと。僕に言えない何かが。
彼女に、会いたい。たとえ、あなたに会えることが出来なくともあなたを想い続ける。
ついでに、進に会いに行こう。何か知っているかもしれない。
そう思って、進の家に向かった。