次の日も朝早くから雛渡りの練習だった。

一度通し稽古をしたあと、直ぐに昨日合わせた衣装が配られる。私と盛福ちゃん、玉珠ちゃんは三人官女の衣装だ。

白の小袖に長袴を履き、その上から社紋(しゃもん)の入った小袿(こうちぎ)と呼ばれる上着を羽織る。平安時代以降の宮廷に勤める高位の女性の服装だ。

舞を舞うからと言って布が軽くなったり動きやすい仕様になっている訳でもなく、重いやら暑いやら動きにくいやらで、衣装を身につけた一発目の通し練習では初参加の三人官女達だけが何度も何度も裾を踏んで転んだ。

こんな服で優雅に歩いていた平安時代の人たち、凄すぎる。


そして私たちよりも重装備なのが五衣唐衣裳(いつつぎぬからぎぬも)を身に纏うお雛さま役、瑞祥さんだ。

十二単衣とも呼ばれるその装束は合計12キロもの重さがあるらしい。


それでも舞のキレは変わらずで息すら上がっていない。歩く姿は貴族そのもので、思わずうっとり見入ってしまう。


「瑞祥の奴、黙ってああしてたら美人なのに」

「中身はゴリラだもんな」


右大臣と左大臣役の神職さまが遠い目をしながらそんな話をしている。なかなかな言い草だった。