えっと、確かまずは左肩から。
右手の手のひらで川の水をすくいあげ勢いよく左肩にかける。あまりの冷たさに一瞬怯んだけれど、勢いのまま同じ要領で右肩に水をかけた。
少し前に禄輪さんから「裏の川で禊をしてくるように」と言われた。
川や海の水で体を洗い清めることで、神職は大きな神事がある前は必ず行っている儀式だ。
やり方は社によって色んなあるらしい。頭から思い切り水をかぶったり潜ったり、滝に打たれるのも禊の一種なんだとか。
水の威力が強ければ強いほど大きな清め祓いの効果を得ることができるらしいけれど、今回は川に浸かった状態で肩に水をかけるやり方でいいと言われたので遠慮なくそうさせてもらう。
滝に打たれてこいなんて言われていたらと思うと、それこそ身体中がぶるりと震えた。
両肩に十回ずつ水をかけると、逃げるように川から上がった。
駆け足で社に戻れば社務所の前で禄輪さんが火を焚いていた。駆け寄るなりバスタオルを広げて肩にかけてくれる。
必死に包まりながら火に手をかざせば、禄輪さんは楽しそうに笑う。
「ハハハ、そんなに寒かったか」
「さ、寒いなんて次元じゃないです……!」
ガチガチ合わさる顎で何とかそう抗議すれば、禄輪さんはもっと愉快そうに笑う。