☆*。

 私の乗る羽田空港に向かう機体が、高度を下げ始めた。

 初めて彼と出会ったときに見た光景を、今度はしっかりと目に焼き付けようと思ったけれども。
 窓際の座席には、小さな先客がいる。

 その先客が窓ガラスに張り付いているものだから、彼を思い出して思わず微笑んでしまう。

 私と彼を結び付けてくれた、あの夜。
 キラキラと輝く瞳を窓の外に向けて楽しそうにしていた彼の様子は、まるで子どもみたいで……。
 思わず違うと言ってしまったけど、実は彼のことも微笑ましくて可愛いと思ったのは、私だけのヒミツ。

 それからは、何度も色んな場所に連れて行ってもらって、色んな景色をふたりで眺めて……。
 彼と同じ時間を過ごすことが、とても楽しく感じていた。

 あまりにも彼の隣の居心地が良くて、実は告白もしていなかったことすら忘れていて。
 一緒にいることが自然に思えて、不思議と付き合っていた気持ちになっていたのかも。

 なんてことを、転勤後に早速遊びに来てくれた彼に告げたら、彼もそうだったらしくて。
 ふたりで思わず笑ってしまった。
 私たち、早いうちから両想いだったんだね。

「ねえねえ、お母さん! 下! キラキラしてる! すごい!」

 隣の席の母親に子どもが大はしゃぎで話しかけている。
 更にその隣に座る私は、ちょっぴりうずうずしていた。

「あのね。下だけじゃなくて、向こう側も見てごらん? 飛行機がいっぱい飛んでいて、明かりが綺麗だよ」

 耐えきれなくなって、私は思わずそう言ってしまう。
 けれども親子は不思議に思うことなく、窓ガラスの向こうへと視線を向けてくれた。

「ほんとだー! ひこーきいっぱーい!」

 ちょっぴり恥ずかしかったけど、子どもが楽しんでくれている様子が微笑ましくて、ほっこりする。

 彼もこんな風に素敵な景色を誰かに共有したくて、私に景色を見せてくれようと思ったのかも。

 窓から離れた位置で外を眺めていると、彼からメッセージが送られて来た。

『そろそろ着くはずだよね?』
『うん。ほかの飛行機の明かりが見えるよ』
『君がいるのは、あの星のどれだろう』

 彼は、空港の展望デッキで待ってくれているのかな。
 きっとそこから、空に連なる機体たちが放つ、星のような明かりを見つめてくれているんだと思う。

『どれだと思う?』
『そうだなあ。難しい質問だね』

 思わず問いかけた質問だけど、正解は私にも分からない。
 だけどこの星は、間違いなく……。

『あなたのところに、私を確実に運んでくれる流れ星だよ』

 私たちが出会ったあの一夜のように、夜空に強く瞬いているから。

~了~