少女は壮琉と同じ時坂高校のブレザー制服を身に着けており、その制服が華奢な彼女の体型を一層引き立てていた。身長は壮琉より少し低く、柚莉よりは少し高い。おそらく一六〇センチ程度だろうか。顔立ちはやや幼く、無垢な美しさが青み掛かった瞳から滲み出ている。
あれ……?
彼女を見た瞬間に、何か心に突き刺さるような感覚に囚われた。
一目惚れでもしたのかと思ったが、どうにもただの一目惚れとは少し異なる。彼女をどこかで見たことがある気がして、胸の中に奇妙な焦燥感が広がっていくのだ。
リボンの色から見て、下級生であることには間違いない。ただ、下級生に知り合いはいないし、学校で特段見た記憶もなかった。だが、彼女のあどけない表情には何故か見覚えがある。
信号が変わる直前、彼女と目が合った。彼女は何かに驚いたように、その青み掛かった瞳を大きく見開いてこちらを見ていた。
そして、その直後──先程と同じく、激しい頭痛と眩暈が壮琉を襲った。
「痛ってぇ……!」
その痛みに、思わず額を押さえて小さく呻く。だが、今回は痛みだけでは収まらなかった。
頭の中で、シャーッというホワイトノイズが鳴り響いたかと思えば、モノクロのノイズ画面のように揺れ動き、脳裏に見たことがないはずの映像が浮かび上がってくる。
頭の中の映像は、同じく時坂神社の石碑の前の信号で、壮琉と同じ学校の制服を着た女生徒と目が合ったところから始まった。その女生徒は壮琉を見るや驚いたかと思えば、嬉しそうに顔を綻ばせてこちらに歩み寄ろうとする。しかし、その刹那、激しいスリップ音が響いて……白い自動車が華奢な彼女の身体を薙ぎ倒し、そのままガードレールに突っ込んでいった──。
それは一瞬の出来事だった。夏の太陽に照り付けられたコンクリートに、赤い水たまりが広まっていく。長く綺麗であっただろう黒髪は血でべっとりと濡れており、腕や脚があってはならない方に折れ曲がってしまっていた。一瞬で見惚れてしまう程に美しかった面影は消え、ぴくりとも動かない肉塊と化してしまったのである。
何だ、これ……?
そこで、はっとして顔を上げた。
今見た映像とこの状況は、あまりにも似ていたのだ。目の前の少女の表情、立ち姿、それに制服は、脳裏に浮かんだ映像と殆ど変わらない。そして、頭の中で見るも無惨な姿になっていた少女と同じように、壮琉を見て驚いている。この部分も同じだった。
まさかと思って車道を見てみると、遠くから蛇行運転をする車が迫ってくるのが見えた。先程の映像で彼女に突っ込んだ白い自動車だ。
壮琉の鼓動が、一気に跳ね上がる。このままいくと、間違いなく脳裏で見た映像と同じことが起こる──何の根拠もなかったが、その確信が壮琉にはあった。
すぐさま壮琉は鞄を投げ捨て、彼女に向かって駆け出していた。一方の少女は、いきなり男子生徒が自分に向かって走ってきたからか、凍りついてしまっている。どうせならその場から離れてほしかったが、いきなりのことであるし、驚きのあまり動けなくなるのも無理はない。
彼女からは気味悪がられるかもしれない。しかし、ただの一時的な錯覚や幻覚だったのなら、それでよかった。その時は素直に謝るだけだ。
ただ、あの光景だけは再現してはならない。それはまるで自らが負った使命のように壮琉の肩にのしかかっていた。
信号はまだ赤だったが、お構いなしに彼女に向かって一直線に走り抜ける。幸い、他に車も来ていない。ギリギリ間に合うはずだ。
その刹那、先程見た脳裏の映像と同じく激しいスリップ音が鳴り響いた。そこで彼女も車に気付いたが、距離的にもう避けるのは不可能だ。
間に合ってくれ──。
壮琉はそう祈りながら、少女に向かって身体を投げ捨てるようにして飛び込んだ。
あれ……?
彼女を見た瞬間に、何か心に突き刺さるような感覚に囚われた。
一目惚れでもしたのかと思ったが、どうにもただの一目惚れとは少し異なる。彼女をどこかで見たことがある気がして、胸の中に奇妙な焦燥感が広がっていくのだ。
リボンの色から見て、下級生であることには間違いない。ただ、下級生に知り合いはいないし、学校で特段見た記憶もなかった。だが、彼女のあどけない表情には何故か見覚えがある。
信号が変わる直前、彼女と目が合った。彼女は何かに驚いたように、その青み掛かった瞳を大きく見開いてこちらを見ていた。
そして、その直後──先程と同じく、激しい頭痛と眩暈が壮琉を襲った。
「痛ってぇ……!」
その痛みに、思わず額を押さえて小さく呻く。だが、今回は痛みだけでは収まらなかった。
頭の中で、シャーッというホワイトノイズが鳴り響いたかと思えば、モノクロのノイズ画面のように揺れ動き、脳裏に見たことがないはずの映像が浮かび上がってくる。
頭の中の映像は、同じく時坂神社の石碑の前の信号で、壮琉と同じ学校の制服を着た女生徒と目が合ったところから始まった。その女生徒は壮琉を見るや驚いたかと思えば、嬉しそうに顔を綻ばせてこちらに歩み寄ろうとする。しかし、その刹那、激しいスリップ音が響いて……白い自動車が華奢な彼女の身体を薙ぎ倒し、そのままガードレールに突っ込んでいった──。
それは一瞬の出来事だった。夏の太陽に照り付けられたコンクリートに、赤い水たまりが広まっていく。長く綺麗であっただろう黒髪は血でべっとりと濡れており、腕や脚があってはならない方に折れ曲がってしまっていた。一瞬で見惚れてしまう程に美しかった面影は消え、ぴくりとも動かない肉塊と化してしまったのである。
何だ、これ……?
そこで、はっとして顔を上げた。
今見た映像とこの状況は、あまりにも似ていたのだ。目の前の少女の表情、立ち姿、それに制服は、脳裏に浮かんだ映像と殆ど変わらない。そして、頭の中で見るも無惨な姿になっていた少女と同じように、壮琉を見て驚いている。この部分も同じだった。
まさかと思って車道を見てみると、遠くから蛇行運転をする車が迫ってくるのが見えた。先程の映像で彼女に突っ込んだ白い自動車だ。
壮琉の鼓動が、一気に跳ね上がる。このままいくと、間違いなく脳裏で見た映像と同じことが起こる──何の根拠もなかったが、その確信が壮琉にはあった。
すぐさま壮琉は鞄を投げ捨て、彼女に向かって駆け出していた。一方の少女は、いきなり男子生徒が自分に向かって走ってきたからか、凍りついてしまっている。どうせならその場から離れてほしかったが、いきなりのことであるし、驚きのあまり動けなくなるのも無理はない。
彼女からは気味悪がられるかもしれない。しかし、ただの一時的な錯覚や幻覚だったのなら、それでよかった。その時は素直に謝るだけだ。
ただ、あの光景だけは再現してはならない。それはまるで自らが負った使命のように壮琉の肩にのしかかっていた。
信号はまだ赤だったが、お構いなしに彼女に向かって一直線に走り抜ける。幸い、他に車も来ていない。ギリギリ間に合うはずだ。
その刹那、先程見た脳裏の映像と同じく激しいスリップ音が鳴り響いた。そこで彼女も車に気付いたが、距離的にもう避けるのは不可能だ。
間に合ってくれ──。
壮琉はそう祈りながら、少女に向かって身体を投げ捨てるようにして飛び込んだ。