彼の話をよくよく聞いていると、彼は本当に、『友人』の多い男だった。

 因みに何故大国の王と友人なのかと言うことを聞いたら、王の結婚式で『紙の鳥』を披露したことがきっかけらしい
 しかも、彼らと学校を作るために計画を練っていると話を聞かされたときは、彼の変人っぷりを私は再認識することとなった。

『大切な友人なんだ』

 彼が笑って話すその言葉を聞く度に、私の胸はつきりと痛んだ。

 森の屋敷に、もう人は私だけだ。
 そのこと、ずっと忘れたことなんてなかったはずなのに、彼と話すようになってから、私は『空白』というものを強く感じるようになっていた。

 そんな日々が続いて暫くして、彼は再び国をあけると私に言った。
 なんでも時空の歪みから『異世界人《まれびと》』がやってくると予言があったらしい。
 現在異世界召喚について、世界に与える影響から、禁止の方向で世界は動いている。そんな中で、異世界にやってきてしまった彼らの保護は、急を要することは私にも理解できた。

『客人を、迎えに行ってくる』
 そう笑う彼は『王』らしく、そして何故か、どこにでもいる『少年』のようでもあった。
 彼を待つ間、私は彼が今どうしているかを想像してみた。

『ようこそ。俺の名前はリヒト・クリスタロス。ここは、俺が治める国、クリスタロス王国だ。異世界から招かれた客人よ。俺は、君のことを歓迎しよう』

 金色の髪に赤い瞳。
 純白の翼に青い目を持つフィンゴットともに現れた美しい王に手を差し出されたら、誰だってその手を取るに違いない。

 そして今のこの世界の、『異世界人《まれびと》』を利用しようとする人間が多いなかで、自分を守ってくれる王に、やがて彼らは心酔するだろう。
 敬愛というより執着に似た――いや、もっとその感情に、相応しい言葉は……?

「依存」

 その言葉を口にしたとき、何故か私の胸は騒いだ。

 ―――違う。自分が、そんなはずはない。

 心臓は、バクバクと音を立てる。

 ――有り得ない。私が、彼に依存している、など。



「帰ってきたぞ! ユーゴ!」

 約束通り数日後、再び彼はやってきた。

「聞いてくれ。なんと異世界人から、本で読んだことのない話を聞いたんだ!」
「それは良かったですね」

 私が頷けば、彼は目を輝かせ、延々と異世界人から聞いた話を私に聞かせた。

「私、今日はもう貴方の話は、聞きたくありません」

 流石に長時間、ずっと相槌を強要されると疲れる。私がそういえば、彼は首を傾げた。どうやら、本気で悪気はなかったらしい。

「えっ? なんでそんなこと言うんだ……?」
「知らない世界の、知らない人間の話を長々と聞かされる私の身にもなってみてください。貴方が異世界に興味を示している件については、十分私も理解しました」
「すまない。君は興味のない話だったか?」
「……」

 彼の質問に、私は頷きはしなかった。
 興味がなかったわけではなかった。

 ただ、妬ましく思っただけだ。
 私が与えられない知識を、異世界人は持っている。私が彼に与えられない権力を、二人の王は持っている。
 私にはないものを喜んで語る彼の姿を、私は見たくはなかった。
 
「じゃあ!」
「はい?」
「今度は、君の話を聞かせてくれ!」

 予想外の彼の願いに、私は驚くことしか出来なかった。

「私、ですか……?」
「ああ。俺が来ていないときは何をしているのか。好きなものだとか、嫌いなものだとか、何でもいい。――俺に、君の話を聞かせてくれ」

 私のことを知りたいと願う。
 彼の笑顔を見たときに、また胸はざわついた。



 その日、久しぶりに夢を見た。 
 それは忘れたはずの、過去の記憶の夢だった。

『ユーゴ様』
『どうか、どうか我らをお救いください!』
 誰かが私を呼ぶ声が聞こえる。

『神に祝福された子どもよ!』
 誰かが私を讃える声が聞こえる。

『どうして、貴方だけが……?』
 そうして、誰かが――私を見上げ、掠れた声で呟く。

「……っ!」
 縋るように、女は私の脚を掴む。血に濡れたやせ細った女からは、昔の明るい面影は微塵も感じられない。
 女の目に宿るのは、私への問いかけだけ。
 女とは違い、健康な私への。

「は……ははは……」
 目が覚めたら、私は泣いていた。
 私は体を丸くすると、頭痛のする頭をおさえた。
  
「……全く、なんて夢だ」



「大丈夫か? ユーゴ。顔色が悪いように見える」
「何でもありません」
「でも、顔色が……」
「何でも無いと言っているでしょう!」

 彼に触れられそうになり、私は思わず声を上げた。
 私に『癒し』なんて必要ない。

「落ち着け。君の心が乱れると、世界に影響が出る」

 その言葉を聞いたとき、私は私の中で、何かがひび割れる音を聞いた。

「……ああ。やっぱり、分かっていたんですね。私が、『神に祝福された子ども』だと」
「ユーゴ?」
「ここに来たのは、自分の地位のために私を懐柔するためですか?」

 祝福の子の忠誠を得る王は優れた王であるとされる。
 彼は、人の心を掌握することに長けている。
 大国の王の心さえ掴む。そんな彼なら、森で一人で暮らす人間の心を操ることなど容易いだろう。

「違う。俺は……!」
「触らないでください!」

 私が叫べば、彼は体をビクリと震わせた。

「危うく貴方に騙されるところでした。……貴方の父が私の村に何をしたのか、貴方が知らないはずはなかったのに」
「……っ」
「私の村を見捨てた王の子が、私と友となろうなど――――虫がよすぎるにもほどがある」



 一三年前のことだった。

 この森にはかつて、小さな村があった。
 村には特産物などがあったわけではなかったが、誰もが心穏やかに暮していた。
 ある日、村に一人の子どもが生まれた。

 『神に祝福された子ども』
 人々は、子どもの誕生を祝福した。

 そして、永遠の命をも与えられるというその子どもの話を聞きつけた王は、自分の元に寄越すように言ったが、子どもの両親はそれを拒んだ。

 長い時を生きる自らの息子に、二人は『普通』に生きていくことを望んだ。
 両親は彼が一〇歳頃不慮の事故で亡くなったが、子どもが困窮するようなことはなかった。村で唯一地属性の魔法を使えた彼は、植物の成長の促進などを手伝いながら、同時に薬師としての役目も果たすようになった。

『ユーゴってば。まーた難しい顔してる!』

 子どもはあまり外に出る生活は送らなかった。それは子どもの性分と言うより、幼すぎる外見のせいだった。
 同じ年に生まれた少女とは、いつの間にか身長が離れてしまっていた。

『部屋に引きこもって、そうやってすり鉢とにらめっこする人生なんてつまらないわ』

 彼女は子どもとは違い、どこまでも明るい人だった。美しい人というわけではなかった。ただ、彼女の纏う雰囲気は、いつもきらきらと輝いていた。
 彼女がそこにいるだけで、周囲の空気は明るくなる。彼女は、そういう人だった。
 
『前空を見上げて、手を空に伸ばすの。陽の光を体いっぱいに浴びると、生きてるんだって、そう思うの』

 無理矢理私の手を引いて外に出た彼女が、空に手を伸ばしてそんな事を言う。

『ねえ、ユーゴ。貴方も部屋にばかり閉じこもってないで、一日の間にこんな時間があってもいいものだとは思わない?』

 そんな彼女だったからこそ、彼女を妻にと望む者は現れた。申し出を受ける前、彼女は私に話をした。

『ユーゴ。私は、どうすべきなのかな?』
『受ければいい』
『え?』
『あの男なら、貴方を幸せにできるだろう』
『そっか。……わかった』

 子どもは彼女の顔が見られなかった。
 その時彼女がどんな表情をしていたかしらぬまま――彼女の結婚は決まった。
 周囲の人間が祝福の言葉を口にする中、子どもは祝福の言葉を述べることは出来なかった。

 最初は同じ目線で進んでいたはずなのに、同じ世界を見ていたはずなのに――いつの間にか自分たちが見ていた世界は、大きく違ってしまったように子どもには思えた。
 そんな日々を過ごす子どものもとに、何度も手紙は届いた。
 
『また手紙が……。いい加減、諦めてくれたらいいのに』

 『神に祝福された子ども』として、自らに仕えよと――手紙の内容は、だいたいいつもそんなことだった。

 王の下に行くつもりはなかった。
 そんな時だった。
 村に、病が蔓延した。
 そして王はその対応として――村人を助けるどころか、結界を張って人々を森から出られなくしてしまった。

「私が。私が拒んだから……?」

 王が村を救うつもりがないこと。それだけは明らかだった。
 
 毎日人々が死ぬ中で、たった一人の子どもが――私だけが、病にかかることが出来なかった。
 一緒に死んでしまえたら良かった。けれど自分に与えられた神の祝福は、それを許しはしなかった。
 そしてそんな私のことを人々は神とあがめ、その祝福が自分に与えられないことがわかったとき、私への態度を変えた。

『どうして、貴方だけが……?』
 いつだって優しい言葉を口にして、明るく笑っていた彼女でさえも、最期はそう言って私の腕の中で命を落とした。
 私には、誰一人救えなかった。
 たった一人。たった一人――愛した女性でさえも。
 
『は……は、あ……。は……はは……』

 一人きりの森の中、私は空を見上げた。
 王も村人も同じことだ。
 馬鹿げている。こんな無力な自分を神の愛し子と思うことも、縋ることしか出来ない人間も。
 みんなみんな、馬鹿げている。

『一人で生きよう。これからは、ずっと一人で』

 この世界に、神などいない。
 他人の優しさなんて所詮作り物だ。
 信じるに値する人間など、この世界にどこにもいない。



 私が突き放してから、彼の訪れはなくなった。森に響くのは木々のざわめき、そして生き物の声だけだ。
 手紙は来なかった。
 そういえば、先代からなら鬱陶しいほど来ていたというのに、彼の代になってから連絡があったのは、初めて彼が森にやってきたときだった。

 いつだって彼は突然やってきて、私の世界をかき回した。
 嵐の日にさえやってきた、まるで嵐のような、太陽のような王。
 訪れがなくなりしばらくして、森に聞き慣れた声が響いて、私は思わず扉を開けた。
 
「ピイ!」
「フィンゴット……?」

 籠をくわえたあの王の契約獣が、森の屋敷にやってきた。
 籠の中に、手紙は入っていなかった。
 手紙を探す私を見て、フィンゴットは首を傾げ、それから静かに飛翔した。
 飛び立つ白いドラゴンの背を見上げながら、私は一人自嘲した。

『はじめまして。突然だが、俺と友だちにならないか?』
 目を瞑ればあの日の彼の言葉が、鮮明に蘇る。

「……私は」

 結局のところどうしようもなく、私は彼に溺れていた。

「あ……」

 彼がいない。彼はもう、自分に会いに来てくれない。
 そう思うだけで、胸が張り裂けそうになって涙がこぼれた。地属性の適性の強い自分では、この小さな体では、森から遠く離れた彼の城に行くことは難しい。
 たとえ城にたどり着いてもなんというのだ。
 自分は神の愛し子だから、王に会わせろと? ……そんなこと、今更得言えるはずない。

「リヒト、様……っ!」

 私が、彼の名前を呼んだとき。

「……ユーゴ?」

 彼が、驚いたような声で私を呼んだ。

「……な、なんで、ここに」

 これは、夢か幻か。
 私が目を瞬かせると、フィンゴットから降りた彼が、私の方へと近寄ってきた。

「フィンゴットが連れてきてくれたんだ。大丈夫か? まさか、どこか怪我でもしたのか?」

 手を伸ばした彼は、私に触れそうになると――伸ばした手を引っ込めて、ぎこちなく目を伏せた。

「す、すまない。俺に触れられるのは嫌だよな」

 だが私は、その手を取った。

「ユーゴ?」
「もう私には、会いに来てくださらないと思っていました」
「それは……」

 彼が私から視線をそらす。

「今は君が俺に、会いたくないだろうと思って」
「これまでは私が拒んでいても会いに来ていたのに?」
「……」

 沈黙の後、彼は口をひらいた。

「すまない。実は君に、話していなかったことがある」
「それは、なんですか?」

 彼が何を話すのか、私にはわかっていた。

「君が言ったように、父上がしたことを、俺は知っていた。君が特別な存在であることも、最初から俺は知っていた」
「……」
「俺は君に会いに来た。でも……でもそれは、君が特別だったからじゃない。俺は……俺は君にただ、一人になって欲しくなかっただけなんだ」

 彼は目をそらすことなく、まっすぐに私を見て言った。
 
「俺は、君と友だちになりたかった。君が誰かの痛みを、一人で背負ってしまわないように。君が誰かの、神様になってしまわないように。悪かった。守ってやれなくて、すまなかった。君を――一人にしてすまなかった」

 王であるはずの彼が、私に深く頭を下げる。
 それは彼の父が、私に一度もしなかったこと。

「貴方なら、どうしましたか」
「?」
「貴方も貴方の父と同じように、村を閉鎖されましたか」
「それは……今の俺には、わからない。もしかしたら、同じような選択をしたかも知れない」
 
 彼の言葉に偽りはない。
 そうだ。いつだって、彼はそういう人だった。
 ……それはきっと、本当は、彼女だって。

「でも同じ理由で、誰かが苦しむのは見たくない。だから俺は、同じことが起きないように、この国を変えたいとそう思う。例えば、誰もが使える薬を。光魔法が使えなくたって、役に立つそんなものを――これから作りたいと俺は思う」

 空を見上げて語る彼の姿が、彼女と重なる。
 姿形は似ていない。ただそれでも、明るい方へ、明るい方へ、私を連れ出そうとするところは、彼女と彼はとても良く似ているように思えた。

『前空を見上げて、手を空に伸ばすの。陽の光を体いっぱいに浴びると、生きてるんだって、そう思うの』

 そう言って、笑っていた。

『どうして、貴方だけが……?』

 最後の瞬間、彼女は私にそう言った。
 かつての私は、それを裏切りだと思った。所詮本当に優しい人間など、この世界にはいないのだと。
 でも、今は。
 今なら彼女や死んでいった他の者たちの言葉も、理解出来るような気がした。

 あの言葉は、全部。私の死を望む言葉ではなく、差別をされていたわけではなく、ただ――彼らはみな、きっと生きたかっただけだった。

 だとしたら。
 あの場所で過ごした、自分に向けられた笑顔も何もかも、全て偽りでなかったのなら。
 あの時自分に向けられた彼女の笑顔が、本物だったのだとしたら――。
 私が救えなかった、のは。

「……っ!」

 『優しい人間』が嫌いだ。
 善人のふりをして、その実何を考えているかわからない。
 心の奥底の裏切りを知ったとき、彼らが私に与えたあらゆるものが、偽物へとかわる瞬間。
 陽だまりのようだった世界は、欺瞞だらけの世界に変わる。
 だからこそ――信じることは、愚かしい。

 私は『死』を知らない。
 でもだからといって、死に瀕した人の弱さを攻めることがどうして出来るだろう。
 生きたいと願う人の心を、神ではない自分が、どうして否定できるだろうか。

「私。……私は」
「一緒に行こう。ユーゴ。俺は君を、一人にしないと約束する」
 
 森の奥の屋敷はずっと、光が差し込んでいるのだと思っていた。
 けれど男の見せる光の世界には、その輝きは、遠く及ばなかった。

「だから俺と、友達になってくれないか?」

 その言葉に返す言葉は、とっくにもう決まっている。



「何というか君とのこれまでを思い出して、俺は三顧の礼という話を思い出した」

 ぽつり彼が呟いた言葉を聞いて、私は彼に尋ねた。

「因みにその話について、貴方はどの程度理解しているのですか?」
「ん? 友だちになりたい相手と仲良くなるために、三回相手の家に行く話だと聞いたが」

「貴方の場合、どちらかというより『三顧の礼』というより『天の岩戸』ですよ」

 百夜通いにしては彼は図太く生きているし、三顧の礼というには礼儀がない。
 だとしたら世界に閉じこもっていた存在を無理矢理外に出す話のほうが、よほど似ているように私には思えた。

 自分は戸の内に引きこもっていたのに、外の世界がどうしようもなく騒がしいから。
 外の世界を見てみようと少しだけ戸を開ければ、強引に腕を引かれる。
 現実に背を向けて、自分の世界に引きこもっていた私を、貴方が外に連れ出したのだ。

「扉の外でどんちゃん騒ぎというか……。何度私が拒んでも、貴方は扉を開こうとするのでしょう?」

 それでも、無理矢理連れ出された世界は案外悪くはなくて。

「すまない。迷惑だったか?」

 一つあの神話と違うのは、閉じこもっていたのが、神ではなく私だったということで。
 外の世界には私よりもっと尊い人が、本当にいたということ。
 
「それでも俺は君に、俺の愛するこの国を、この世界を、一緒に見て欲しいと思ったんだ」

 風魔法を使えず、空を飛ぶ生きものとの契約も結べない私では空は飛べない。
 彼が見せてくれた、初めて見た空からの王都の景色は、息をのむほど美しかった。



「おはようございます。リヒト様。執務を終えられていないのに、ここにいらっしゃるとはいい度胸ですね?」
「お、おはよう。ユーゴ……」

 彼の下についてからというもの、日常は慌ただしく過ぎていった。
 森でいたときも彼には振り回されていたが、臣下となってからのことを思えば、あれはまだ甘かったのだと私は再認識させられた。

「陛下は今日も、宰相殿の尻に敷かれておりますなあ」
「一応俺がこの国の王なんだけどな……」
「ならばもっと、王らしく振る舞ってください」
 
 彼の周囲の人間は、みんながみんな彼に甘い。
 それが彼の人柄ゆえというのが理解できるからこそ、私はもどかしかった。

 近くについてよくわかった。
 彼は才能ある人だ。
 森にいる時は、夢物語のように感じたことさえ、彼ならば出来るに違いない――今の私にはそう思えた。

「リヒト様、先日私がお渡ししたものは見ていただけましたか? 魔法の研究はほどほどになさって、早くいい人の一人や二人作ってください」
 
 彼の欠点はただ一つ。
 それは彼に、妃がいないことただそれだけ。

「そういう不誠実なことは、俺はだな……」
「浮いた話一つ無いから言っているんです!」

 私は、思わず叫んだ。
 それは私が、今彼に望む唯一のことだった。
 そう。永く続くこの命が、貴方に願うことはただ一つだけ。

 貴方がこの世界から消えても、貴方の面影を持つ王にお仕えしたい。

「早くお妃様を迎えてください。お世継ぎをつくって、早く私を安心させてください」

 私の光。
 誰よりも大切な優しい貴方が、悲しむ顔は見たくない。
 だからこの国を、貴方が愛するこの国を守るために、貴方がいなくなっても私の心が揺るがないように、私にしるべを与えて欲しい。
 永遠とも思えるこの命。
 私の魂《こころ》が光を失い、闇に閉ざされてしまわぬように。

 貴方が私に『世界』をくれた。
 貴方が魅せてくれる世界が、私にとっての『世界』そのもの。

 だから貴方が愛するこの国を、私が守ると誓いたい。
 リヒト様。
 この命が尽きるまで、変わらぬ敬愛を貴方に捧げましょう。


 この世界にただ一人。
 『我が君』――私にとっての、『光』の王よ。