ちょっとだけ。

ほんのちょっとだけ吐き出していいかな。

もう少しだけ。

もう少しだけ心ん中溢しても怒らないよね。


そう思案してるうちに、そのガラス玉みたいな小さな粒はあっという間に数を増やして心の中に無数の痕になって流れていく。

心の中って渇いたりしないから。

色んな感情が心の中でいつもトクトクと流れて巡って心を枯らすことはない。


でも僕らは弱いから。


ポタンと落ちて沁みになって、誰にも気づかれずに痕になる。


喜びの痕なら何年経っても愛おしく思えるけれど、そうじゃない痕はきっと圧倒的に多くて、いつまでたっても疼いて、(ただ)れて、僕の心の片隅で瘡蓋(かさぶた)にすらなれないまま痛み続ける。

ときどき目の前の全てことがコワくなって、
側に居てくれる人すら見えなくなって、
僕の孤独は廃色(はいいろ)に膨れ上がって、呼吸さえもままならなくて。



ただ落としていく。

落ちていく。

重量に従って何にも逆らえずに。

真っ逆さまに。


──心の中を消せる、消しゴムがあればいいのに。


なんて。ありもしないことを並べて。


でももしも心専門の消しゴムが今、僕の手のひらにあって涙の全ての痕を消せるとしたら?

僕は喜んで消すのだろうか。

それとも慌てて、その消しゴムを何処かに隠してしまうのだろうか。

違うよ。
きっと違うな。

僕なら多分泣きながら消すんじゃないだろうか。 

どうせ消しきらないクセに。
涙って奴も僕って奴もキリがない。


ねぇ、遠い未来の僕はちゃんと笑えてるだろうか。

涙の痕を数えたりしてないだろうか。

ほんの少しだけ涙の痕を慈しむことができるだろうか。

叶うならばせめて『今の僕』を笑えてるといいな。


馬鹿だなって泣きながら。

涙の消しゴムを片手に。





2022.5.14