疲れた。溶けちゃいそうだ。もう何にも考えたくない。

誰だってそんな日あるよね。僕にもそんな日は例外なく訪れる。

僕はため息をひとつ吐き出してからゴロンとソファーに寝転んだ。

頭上の窓から、白いカーテンがふんわり膨らんで僕の目の前をふわふわのスカートの裾みたいに翻しながら、春風が鼻を掠める。

眩しくてゆっくり目を閉じれば、太陽の光が残像となって瞳の中を仄かに照らしながら、やがて雪のようにほろりと溶けて消えていく。

ゆっくりゆっくり体が此処じゃないどこかへ沈んでいって、意識は深く見えない底の方へとただただ堕ちていく。

眠りの淵に辿り着きそうになって、春風の匂いでまた浮き上がってまた堕ちて、中途半端に思考の狭間で漂って。

自分の呼吸がやけに静かに感じて、僕の意識と無意識の混濁したモノは息を吐き出すたびに、無意識が深くなる。

そうしてようやく辿り着いた眠りの淵を覗き込んだら、あっという間に無限の中に引き摺り込まれて、溶けて絡まって神秘の静寂を湛えながら最深部まで沈んでく。


──そして最深部に身体を横たえた瞬間だった。深海の探索を終えた潜水艦のように突如、僕は浮上する。

ガタンッ

ぼてん。

目をパチリと開ければ僕はソファーから落っこちていた。

風が笑うように僕の髪をくすぐりながら撫でている。

うん。あるよね。

でも、なんか悪くない昼下がり。