今日も朝日は昇っていく。

──僕の惰性と退屈を乗せて。


風が冬を連れてきてから、ため息が多くなっていく日々に、キミの煙草の銘柄を思い出す。


あの日。初めて雪が降った日。

キミが白く吐き出した煙が鼻を掠めて、僕が見上げるとキミはごめんと言う。

ほんとはごめん、なんて思ってないくせに。
煙草も、そして僕のことも。

僕の手は簡単に手放すくせに、煙草はいつもポケットの中。

いつもキミと一緒。

煙草にヤキモチなんて馬鹿げてるけど、それだけキミが好きなんだよ。

いつかの夜、そんなことをキミに言ったけど覚えてるかな。

キミは煙草をふかしながら目だけで微笑んで、愛想程度に僕の頭を撫でる。僕が眠ったフリをすれば、キミはちゃんと毛布を掛け直してから部屋を出る。

キミは僕と朝までは居てくれない。

決まって朝がくる前に、キミは僕の知らない何処かへ帰っていく。


──キミと出会って二回目の冬、僕からキミを手放した。

だってどうしようもなく苦しいから。

好きな気持ちと苦しい気持ちはどこか本質が似ていて、僕を蝕んでいく。

いつからだろうか。

キミと一緒にいて心が軋むようになった。

キミがそばに居ても遠く感じて、寂しくて、孤独だった。

──もう来ないで。

そう言って背を向けた僕にキミは何も言わなかった。きっとキミもわかってたんだよね。

だから言葉足らずなキミは煙草をふかして、いつも僕の求める言葉を探して、でも見つからなくて言えなくて、僕を抱きしめることで誤魔化した。

わかってる。でもわかりたくない。
終わりにしたい。でも終わりたくない。

やがて永遠にループしていく感情に疲れて、僕はわからなくなった。

だから、僕はさよならなんて言わない。
ごめんも言わない。
大好きも言わない。

ただね。一度で良かった。

──キミと朝日を見たかった。


2025.11.28