ある冬の夜、帰り道に猫に会った。

正確には目があったというのが正しい。

首輪もない。人馴れもしてない。知らない猫。

でも黒い毛並みのその猫の金色の瞳と目があって、囚われたように一瞬僕の足は止まった。


そんな僕を警戒するように僕を数秒見つめたあと黒猫は脇道へと駆け出していく。

自然と僕の足も猫を追うように足早になって、いつのまにか必死に黒猫の姿を追いかけていく。

どこへいくんだろう。

何があるんだろう。

誰に会えるんだろう。

いつしか足も心も踊るように跳ねて、月夜に照らされた道を僕と黒猫だけが駆けていく。

この先にあるものが非凡でおとぎ話のような、そんな非現実的な世界を夢見ながら、僕は駆けていく。

夜に連れて行って。
誰も知らないとこへ連れて行って。

たった一夜だけでいい。
ただ夜を楽しみたい。

夜に溺れて夜に漂って、夜に溶けてしまいたい。