小さな頃からスノードームが好き。
小さな空間に閉じ込められた永遠の世界。

小さな(てのひら)くらいしかないその空間にそこだけ年中、雪が降り注ぐ。

雪が天井まで舞い上がってゆっくり地面まで降りていく(さま)は、まるで心の中の粉々になった想いまでもが降り積もるように、繰り返し何度でも永遠に降り続いていく。

眺めていれば僕の一人きりの部屋にも雪が降り始める。もう誰も帰ってこない部屋には、今もキミとあの日一緒に見た真っ白な粉雪が降り注いで、あの日に戻ったのかとつい錯覚を起こしそうになる。

もうこれ以上降り積もらないように、スノードームの雪にキミへの想いを重ねないように、雪が止まないこの部屋に鍵をかけたのは、いつだっただろうか。

あの日から何度季節が巡っても、あの部屋にはまだしんしんと雪が降り続いている。

きっと僕の孤独もキミに届かない愛しさも全部ぜんぶ、雪の結晶へと姿を変えて、今も誰かに見つけてもらうのをただ待っているのかもしれない。

それとも待ちくたびれた結晶はもうずうっと前に全て溶けて、弱い僕から無数の涙となって出て行ってしまったあとなのかもしれない。


キミはいまどこにいるんだろう。秋をすっ飛ばして、今年も冬の足音が駆け足で聴こえてくる。

今年はちゃんと雪を見れるだろうか。目を逸らさずに君との思い出を雪に重ねて、溶けるまで見守ることができるだろうか。

あの雪の街へ行ってみることが出来るだろうか。

全てが溶けて消えてしまう前に。
あの雪に触れることができたなら、
見ることができたなら、
懐かしいキミの声と共に僕の心に雪が降る。


きっとね。

となりにキミが居なくても。

二度と雪が止まなくても。

永遠にキミに会えなくても。

僕の心にはいつまでも悲しい色をした雪が、
ただ──しんしんと積もるんだろう。



2022.10.12