ーーー 大好物の唐揚げをお腹いっぱいに、幸せと共に満たした僕は、両親に了承を得て、久しぶり自転車を引っ張り出すと、既に待機していた、かなちゃんと合流する。

「ごめん。待った?」

「ううん。全然!」

僕らは2人、自転車に跨ると、一列になって走り出す。久しぶりではあったものの、動作は体に染み付いている。

公園への道のりも、頭で考えるよりも、体が勝手に運んでくれる。

蛾や、小さな虫達が群がり、チッチッと羽根を焼かれる音がする街灯の下を通り過ぎ、文明の入りこむ余地がない、天然のプラネタリウムと月明かりを浴びて、ヤブキリの羽根を擦り合わせた、ジーッジーッという夏の風物詩を鼓膜に馴染ませ、心地よい風を全身で受けて、夜のサイクリングを楽しむ。

まだ更かい時間ではないものの、車道を走る車は、殆どおらず、安全を確認したかなちゃんが、僕の横に並ぶ。

「お母さん、喜んでたでしょ? 私のお母さんなんか、昔好きだったチョコレートを、山盛りに用意しててさ、今でも、やっぱり子供のままなんだなって、なんだかむず痒かった」

かなちゃんはコロコロと笑う。そう、これもずっと変わらない。耳触りの良い笑い声。

「僕の所も似たようなものだよ。マシンガントークが止まらなかった」

「アハハっ! 壮くんのお母さんって、昔から話し好きだったもんね!」

「でも、やっぱり、久しぶりに母さんの手料理を食べると、母さんの偉大さが身に沁みるよ」

「だよね~。私も、ずっと自炊してきたけど、お母さんの味に近づけないんだよね。材料は同じはずなのに。なんでなんだろうね」

地元を離れて気づく。退屈に思えていたこの場所にも、何でも手に入るあの場所には無いものがある事。

そして、こんな風に、気兼ねなく身内の話が出来るほど、家族ぐるみで仲の良かった僕達。だからこそ、僕は必然的に訪れるであろうと信じていた未来があった。

ーーー そうこうして、思い出の道を、風を切り゙走り続けて約10分。僕達は、目的地である思い出の地に辿り着いた。