ーーー 窓に流れる景色に、記憶を落とし込んでいると、あっという間に時は過ぎていた。

もう間もなく到着する。

地元駅との距離と比例して、速くなる鼓動との向き合い方を模索している途中、そんな悠長な事を言ってるなとばかりに、鈍行列車は、懐かしい香りのするホームへと入構して行った。

プシュという空気が潰れるような音と共に開かれた扉は、この町を旅立った日と変わらない。

今度は、あの頃の気持ちを都会に置いて、真新しさを帯びた足取りで、この地へ帰ってきた。それが何だか、ノスタルジックへと変換されて、足取りも自分のものではないような感覚へと陥る。

小さな駅舎だけが聳える寂れたホームを見渡しながら、黄色の点字線をなぞるようにして歩く。

2両編成の電車は、駅舎からそう遠くない位置で停車したお陰で、ものの10秒で改札へとたどり着いてしまった。

改札と言っても、無人駅のため、運賃は既に車内で支払っており、ただの木造の建物に、ベンチが2つ置かれただけのスペースへと吹き抜けとなっている。

そんな殺風景がいつもなら広がるはずだったが、今日は違う。小さな駅舎のベンチに座り、僕の姿を見るや、パアっと笑顔を咲かせ立ち上がった、彼女の姿があった。

「た、ただいま」

その言葉がこの再会に相応しくないのは分かっていた。

現在、僕が本籍を置いている都市と、また別の都市でかなちゃんは生きている。

つまり、かなちゃんにとっても帰省中という訳だ。

互いに「ただいま」のこの町で、一方的に送る言葉は違和感がある。

それをかなちゃんも察したのだろう。

「おかえり。それと、ただいま。そして久しぶり」

再会に相応しい言葉を詰め込んだようなその挨拶に、かなちゃんらしさを感じて、帰って来たんだなと実感する。

「うん。おかえり。久しぶり。かなちゃん」

ホームに吹いた風は、降り立った瞬間の、肌を擽り、速まる心臓を煽るようなものではなく、懐かしさと、切なさと、愛しさと、侘しさと、喜びを運ぶ、そんな夏の匂いのこもる、優しい涼しさだった。